実は“球団史上最強”だった2024年鷹打線 100打点カルテットの「ダイ・ハード打線」超えの理由

ソフトバンク・近藤健介(左)と山川穂高【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・近藤健介(左)と山川穂高【写真:荒川祐史】

3割打者も30本塁打もわずか1人でも…“ダイ・ハード打線”超え?

 今季は開幕からスタートダッシュに成功し、ほぼ“1人旅”と言ってもいい独走ぶりで、2位以下に大差をつけて優勝を手にしたホークス。その強さの要因として挙げられるのが強力な打撃陣だ。打率、本塁打、打点の打撃3部門のトップは近藤健介外野手と山川穂高内野手で独占。序盤に好調をキープしていた柳田悠岐外野手を故障で欠きながらも、今季の1試合平均得点4.2点はパ・リーグで断トツの成績だ。(成績は9月26日終了時点)

 とはいえ、個々の成績に注目すると、あまり凄さを実感できないファンも多いのではないか。たとえばリーグ打率トップの近藤ですら、打率はわずかに3割を超える.314。本塁打、打点の部門で先頭を走る山川は33本塁打、95打点。リーグトップとはいえ、過去のタイトル獲得者と比べればややインパクトに欠ける。

 例年から見ても圧倒的な成績を残している選手が見当たらないにもかかわらず、実はデータ分析の観点で見ると、今季のホークス打線の強力さは「歴代最高クラス」と言えるのだ。その出色ぶりは、ホークス史上最強とも言われる「100打点カルテット」がラインナップに並んだ2000年代前半の「ダイ・ハード打線」を超えるほど。球史に残るほどの数字を残しているとは思えない今季の打線が、なぜダイ・ハード打線以上と言えるのだろうか。

やはり傑出した数字とは言えない個人成績…しかし相対評価では?

 まずは今季のホークス打線の成績と、2003年の打線を比較してみよう。以下の表は2003年と2024年において、規定打席に到達した打者のOPS(出塁率+長打率)上位4人の打撃成績を比較したものだ。

 一般的に、OPSは.900を超えればリーグを代表する打者、1.000を超えればリーグ最強レベルの打者とされる。そんな中、ダイ・ハード打線はなんと上位4人全員のOPSが.900を超えている。しかも井口資仁、松中信彦、城島健司の3人はリーグ最強クラス。まさにホークス史上最強打線と呼ぶにふさわしい成績に思える。

 一方、今季のホークスで最高のOPSを記録している近藤は.960。チーム内最強の打者ですら、OPS1.000には届いていない。今季パ・リーグの本塁打王争いを独走している山川もOPSは.816。リーグを代表する打者の基準である.900には大きく及ばない。チーム上位クラスの打者を比較すると、ダイ・ハード打線と今季の打線の成績には大きな差が開いている。

 この打撃成績の差は一部の打者だけでなく、チームレベルで見ても同様だ。2003年と2024年で、ホークス打線のチームOPSを比較してみよう。

 今季のホークス打線はOPS.720。これは2003年ホークス打線のOPS.828と比較すると110ポイント近く下回っている。比較すると差は明確で、2024年の打線が上回っている様子は全く見当たらない。

 だが、この比較には重要な観点が抜け落ちている。それは評価が相対的でない点だ。根本的に野球は相手チームの得点を上回れば勝利するスポーツだ。例えば、1試合あたり6点取れる打線というと相当に強力な打線であると感じるだろう。しかし、これが全チームが平均7点を取るリーグで記録されたのであれば、強力に思えた打線も、むしろ貧弱ということになる。要するに野球においては絶対的な数字の大きさだけで価値は決まらない。どれだけ差をつけたか。つまり相対評価でなければ、ゲーム内における本質的な価値はわからないのだ。

 では、この相対的な観点から比較を行ってみよう。以下の表4はダイ・ハード打線の中でも最強とされる、「100打点カルテット」を擁した2003年と今季ホークス打線との相対評価での比較だ。

 2003年のホークス打線が記録したOPSを見てみると.828。さきほども説明したが、これはかなりの高さだ。2024年のホークス打線でこの基準をクリアできているのは近藤のみ。ただ、この2003年はホークスのみならず、リーグ全体で得点が入りやすいシーズンだった。この年のパ・リーグの平均OPSは.790。ホークスの.828と比べると38ポイント差と、実はそれほど大きな差はついていない。この年のホークスは確かに優れた打撃成績を記録していたが、実は他球団もそれは同様だったのだ。

 一方、今季はどうだろうか。2024年にホークス打線がマークしたOPSは.720。これに対して、リーグ平均は.651。平均に比べて69ポイントも高いOPSを記録している。実は今季はプロ野球史に残る歴史的な「打低シーズン」。全チームが得点を取りにくい環境の中でのプレーを余儀なくされており、その中で見ると今季のホークスが記録したOPSは極めて高かったのだ。

 このOPSの相対評価を具体的な数値で表してみよう。相対評価を表す「傑出度」は以下の数式で求めることができる。リーグ平均を100とした場合、どれほど傑出しているかという数字だ。この傑出度で見てみると、2003年ダイ・ハード打線のOPS傑出度は「110」。これはリーグ平均に比べて1.1倍のOPSがあったことを意味する。

【OPS傑出度=チームOPS÷リーグ平均OPS×100】

 一方で、今季はリーグ平均のチームOPSが.651だったのに対して、ホークスは.720。これを傑出度で表すと「120」となる。さきほどの2003年ダイ・ハード打線が傑出度110だったが、今季の打線はそれを上回る傑出度を記録している。野球というゲームの本質である「相手に差をつける」という観点で見た場合、今季の打線はダイ・ハード打線をはるかに上回る威力を持っているのだ。今季、圧倒的な強さを誇ったホークスは、あのダイ・ハード打線をも上回る強力打線で“打ち勝って”いたのだ。

2024年ホークスは歴代最強。あの“レジェンド”のブレーク年をかわす

 では、今季のホークス打線をこの相対評価で見た場合、歴史的にどれくらいの強さなのだろうか。さきほどと同じように、リーグ平均からの相対評価を行うと、「ホークス史上最強打線」はどの年になるのだろうか。以下の表5は歴代ホークス打線をOPS傑出度トップ10で表したものだ。

 これを見ると、今季のホークス打線の傑出度「120.5」は、なんと歴代の中でも最も高い数字である。ダイ・ハード打線と比べて優秀というだけでなく、球団史でも最強の打線だったのだ。

 ちなみに2位となったのは1957年、南海時代の打線だ。OPS傑出度は「120.4」。今季の120.5をわずかに下回る形となった。この1957年に限らず、ランキングには1950年代の打線が5シーズンもランクインしている。この時代にブレークを果たしたのが野村克也選手だ。野村は今季以上の打低環境にあった1957年のパ・リーグにおいて、30本塁打でタイトルを獲得し、一躍ブレーク。他球団が打力の低い打者しか揃えられなかった捕手のポジションに、リーグ最強の打者を配置することで圧倒的な差を作った。相対評価の観点で見ると、実はものすごい打線だったことが分かる。

 意外な年代がランクインする一方、「ホークス史上最強」と言われる2001~2003年のダイ・ハード打線はどの年もトップ10入りしていない。100打点カルテットをはじめ、インパクトのある成績が記録されたこの期間は、ホークスに限らずパ・リーグ全体の打撃成績が良かったのだ。プロ野球史に残るほどの強力打線と言われたダイ・ハード打線は、傑出度で見ると意外にも目立っていない。実はそれほど他球団に大きな差をつけられた打線ではなかったということだ。

 今季のホークス打線は例年の基準で成績を見ると、その凄みはわからない。相対的な視点を持つことで、初めて価値がわかるはずだ。あまりそのようには見えなかったかもしれないが、今季のホークスは打って打って打ちまくる打線のチームだったのだ。プロ野球史には「ダイ・ハード打線」のほかにも「マシンガン打線」「いてまえ打線」など、数多くの強力打線がある。今季のホークス打線はそこまでの破壊力とは思われていないかもしれないが、なにかしらの愛称がつけられてしかるべき圧倒的な攻撃力であった。

DELTA http://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する「1.02 Essence of Baseball」の運営、メールマガジン「1.02 Weekly Report」などを通じ野球界への提言を行っている。(https://1point02.jp/)も運営する。