柳町達が我慢した涙…忘れられない“愛妻の一言” 春先の2軍生活を救った家族の支え

ソフトバンク・柳町達【写真:小池義弘】
ソフトバンク・柳町達【写真:小池義弘】

「いいことも悪いこともあったシーズンでしたけど、いい形で終われてよかった」

 ホークスは4年ぶりのリーグ優勝に輝きました。鷹フルでは主力選手だけではなく、若手からベテランまで選手1人1人にもスポットを当てて、今シーズンを振り返っていきます。第1回は、柳町達外野手をお届けします。春先から続いた苦しい2軍生活の中で、支えてくれたのは家族の存在でした。その中でも、愛妻からの一言が忘れられないと語ります。1軍の壁がどれだけ厚くとも、気持ちが折れずにいられた背景に迫ります。

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 今季は67試合に出場して打率.271、4本塁打、37打点。優勝を決めた23日のオリックス戦(京セラドーム)では2点リードの5回1死二、三塁で右中間への2点適時打を放った。ビールかけ前のあいさつで小久保裕紀監督が「あのツーベースで勝負あったかな」と振り返るほど、大きな一打だった。

 前回チームが優勝した2020年は12試合出場に終わっただけに、これだけ優勝に貢献できたのは初めての経験となった。「いいこともあれば悪いこともあったシーズンでしたけど、最後にいい形で終われてよかったと思います」。劇的なサヨナラ打でチームを勝たせた試合もあった。成績以上に、柳町の存在感が際立つようなシーズンであったことは間違いない。

 プロ5年目は、またも逆風で迎えることになった。2023年、チームは3位に沈み、フロントも積極的に戦力を補強した。山川穂高内野手、アダム・ウォーカー外野手ら強打の選手を次々と獲得。昨オフに近藤健介外野手が加入した時も「正直しんどい」と漏らしていたが、また壁は厚くなった。柳町自身、オープン戦も打率.125と結果を残せず、開幕を2軍で迎えた。ウエスタン・リーグでは4割前後の打率を残した時期もあったが、1軍に昇格したのは5月28日。およそ2か月の2軍生活の中で、家族はどんなスタンスでいてくれたのか。

「マイナスな気持ちになることが多い時期だったんですけど、それでも家に帰ったらいつも通りに接してくれた。そういう落ち込んでいた時も、いつもと変わらない感じで接してくれたので。それがすごくメンタル的にも辛い思いを忘れさせてくれるような、気を遣ってくれていたのかなと思います」

 自宅でネガティブな感情を見せてしまったことはない。野球の話も「そこまではしないです」と言う。その上で、「ちょっと落ち込むくらいです。でも、感じ取ったりしていたと思うので、変わらずにいてくれましたね」。“いつもと同じ”であることで、1軍を目指す自分を支えようとしてくれた。

 家族との何気ない時間の中で、忘れられない言葉がある。柳町自身、記事を読むことはあまりないそうだが、愛妻から「鷹フルの記事とかで僕の記事を読んで、それで『こんなこと言えてすごいね』とか言って褒めてくれたので。それは気持ち的にも楽になりましたね。『キツいと思うけど頑張ってんだね』ってことは言ってくれましたね」。愛妻も、どんな事情で自分が今、2軍にいるのかも当然知っている。辛くても前だけを見る“夫”の姿を、純粋に「すごいね」と思ったようだった。

 チャンスを待つしかない状況の中でも柳町は「1軍に行きたいっていう気持ちもありますけど、それはこっちが操作できる問題じゃない」と繰り返していた。後輩の井上朋也内野手から「気持ちが乗ってこないんです」と相談された時には、「好きなことをやっているのに、それを続けられなかったら、野球が終わった後も何も続けられないんじゃないか」と答えた。2軍暮らしは辛かったかもしれないが、柳町の“深み”は何倍にもなったシーズン。自分の発言も、苦しさも、妻が記事を通して見てくれていたことが嬉しかった。

 昨年の9月上旬、第1子となる男児を授かった。出産にも立ち会ったそうで、「感動したんですけど、泣きそうだったんですけど、周りの人は平然としていたので。涙が引っ込みました。僕だけ泣いていたら気まずいなと思って、そしたら引っ込んでいきました」と、必死に我慢したそうだ。最近の成長についても「まず体が大きく、重くなりました。毎日毎日、成長していく過程が見られるので。1年間が早く感じました」と、幸せをかみしめている。

 2024年は、父親となって迎えた新たな1年。「(家族を)食べさせるために、なんとか1軍で活躍しないといけないという強い気持ちにさせてくれました」と覚悟を持って臨んだシーズンだった。優勝を争う9月上旬に愛息は1歳を迎え、「(スタジオに)写真を撮りに行ったり、ケーキを作ったり、プレゼントを買ったり。壁が汚れないように水でお絵描きできるおもちゃを買ったんですけど、全然書かずにペンだけ舐めてますね(笑)」と明かす。自分のためだけじゃないから、辛かった春先を乗り越えることができた。優勝の輪に加わった“父”を、家族も喜んで見てくれているはずだ。

「(息子は)まだつかまり立ちくらいです。言葉も『ママー』とか『パパー』とか、それだけしか話さないですけど、何かを発するようになりました。(家族の存在は)野球以外のところで、癒してくれるじゃないですけど。落ち込んじゃう日もあれば、いい日もありますけど、それも家に帰れば忘れさせてくれる存在かなと思います」

 6月1日に柳田悠岐外野手が登録抹消となり、外野の一角を欠くことになった。正木智也外野手とともに、柳町の存在がチームにとっても不可欠だった1年だ。一番近くで努力も辛さを見守ってくれている家族が、「すごいね」と褒めてくれるのなら、柳町はどんな壁だって越えていける。

(竹村岳 / Gaku Takemura)