15日のオリックス戦…7回無死一塁から右飛に倒れた瞬間にバットを掲げた
感情のままにかざしたバットを、振り下ろしてしまった。クールな一面からは想像できないほどの、“らしくない姿”だった。
延長12回の末に3-0で勝利し、連勝を「6」に伸ばした15日のオリックス戦(京セラドーム)。終盤戦ならではの重圧とも戦いながら、毎日結果を残そうとしているのが正木智也外野手だ。
1か月ぶりの先発となった大津亮介投手と、球界屈指の左腕・宮城との投げ合い。スコアは動かないまま、どんどんと試合は進んでいった。迎えた7回、先頭の近藤健介外野手が四球で出塁すると、なんとかチャンスを広げようと打席に入ったのが正木だった。3ボール1ストライクから積極的に振っていったが、結果は右飛。打球を見上げると、両手で握ったバットを頭上に上げ、そのままグラウンドに叩きつけた。
試合中に笑顔を見かけることはあるが、悔しさのあまり表情をゆがめるようなシーンはなかなか見たことがない。一瞬だけだがあらわになった感情は、どんな意味があったのか。
「同点で、コンさん(近藤)が先頭で出てくれた。バントのサインも出なかったので、繋ぐことを期待されているんだなと思いました。ボールも見えて、あのカウントまでいって、しっかりと振りに行きました。打つボールも間違えていなかったと思うんですけど、打ち損じてしまって……。そこはすごく悔しかったです。勝ちたいし、打ちたい気持ちがありました」
記憶は定かではないが「多分、(バットを振り下ろすまで)行きました。地面をバン! ってしたので」と、叩きつけた感触は手の中にある。これまでの野球人生を振り返っても、負の感情を出してしまったことは「なかったですね。とっさになっちゃいました。悔しかったんですけど、物に当たるのは良くないです」と、少し時間が経った今は、反省が色濃く残っていた。
「悪い感情は出さないようにしてきました。本当に悔しい時とかはそれぐらいはいいかなとは思うんですけど、基本的には出さない方がいいかなと。高校、大学の監督さんからも『悪い方の感情は出すな』って言われてきました。だから達さん(柳町)もそうなんだと思います。打てなくてもケロッとして帰ってくるじゃないですか。僕も高校の時は4番で、僕がそういうことをしてしまうと、『他の選手に悪い影響が出ちゃうから』って。それは高校でも大学でも教えられてきましたね」
柳町自身も、今季は5月28日に1軍昇格するまで、2軍生活が続いた。チャンスを待つ日々の中でも「気持ちが切れたら凡人だと思うんです。そこで切らさなかったら、本当にすごい人になれる。だって、普通の人は切れるじゃないですか。普通にならないためには、そういうことが大事なんじゃないですか」と語っていた。バットを叩きつけた正木の姿に、言葉を選びつつ「悔しい気持ちも大事ですけど、物に当たるのは良くないと思います。僕たちは(多くの人に)見られていますから、うちに秘めていられるくらい冷静でいたいなと思います」と話す。必要なのは、静かな闘志なのかもしれない。
9回1死で正木は、マチャドから中前打。代走に周東佑京内野手が送られて、交代となった。3打数無安打で迎えた守護神との対決で、最後に結果を残した。7回の打席を踏まえて「引きずらないように。1打席1打席、新しいもので前の打席は関係ないので」と言う。瞬時に切り替えて、目の前に集中する大切さも今学んでいるところだ。
スタメン起用されても、1打席目や2打席目で結果を残せずにどんどんと形が崩れてしまう選手もいる。早い段階で快音を響かせられなければ、気持ち的にも追い込まれがちになる。正木も「僕も1年目とか2年目はそのタイプでした」と認める。今季は15日の試合を終えて、出場66試合で打率.271、6本塁打、26打点。6番打者として日々、たくましくなっていく中で胸にあるのは、小久保裕紀監督からの言葉だった。
「『4打席目をいかに打つかが大事』と監督から言われました。3打席目までダメでも、4打席目に打てるかが、『レギュラーか、レギュラーじゃないかの違い』だと。4タコなのか、4打数1安打なのか。四球を取って3打数無安打にするとか。そういうところが大事だと言われましたし、本当に1回の打席を大事にしたいです」
13日から始まったオリックスとの4連戦。試合前、右翼の位置で守備練習をしていると、指揮官の方から声をかけられた。「いろんな話をしましたね」。大事なところで、代打を送られることなく、打席を託してもらえるかどうか。まさにレギュラーとして大切な要素だった。「1日、ヒット1本を出すことがどれだけ難しいのか、すごく感じますね。日々、試行錯誤しながらって感じです」。悔しさを感じることができるのも、1軍の試合に出場しているから。どんな感情も、正木智也なら成長に変えていける。
(竹村岳 / Gaku Takemura)