4年ぶりのリーグ優勝が目前に迫っているチームにとって、大きなピンチを迎えるかもしれない。だからこそ、大切なのは「よく食べてよく寝ること」だ。主砲が語った言葉の全てに、プロとして大切な要素がたくさん詰まっていた。
ソフトバンクは16日、オリックス戦(京セラドーム)に1-0で勝利した。優勝へのマジックナンバーは「5」。頂点がはっきりと見えてきた中で、心配な出来事が起こった。近藤健介外野手が、右足を痛めて試合途中に交代。病院を受診する「緊急事態」となった。近藤とともに「不動の4、5番」として打線を引っ張ってきた山川穂高内野手が口を開いた。
「5番・指名打者」で先発した近藤が4回2死、中前打で出塁した。次打者・正木智也外野手への3球目、二盗を成功させたが、塁上で苦悶の表情を浮かべた。しばらく座り込んだ後にようやく立ち上がり、治療のためにベンチへ下がった。プレーは続行したものの、7回無死の打席で代打を送られて交代となった。
小久保裕紀監督は「明日になってみないと。今のところは情報なしです」と説明。悲願のリーグ優勝が見えてきているが、「どっちにしても近藤の状態。戦列を離れるようになったら、もう一度練り直さないといけない」と、報告を待つしかなかった。離脱となれば、チームに与える影響は非常に大きい。4番として、近藤とともにバットで貢献してきた山川が語ったのは、「よく食べてよく寝る」ことだった。
「優勝が近づいてきたり、何かが起きたりとか、いろんなことがありますけど。こういう時であればあるほど、基本的なことでいいんですよね。基本に忠実にやればいいだけ。じゃあ我々が基本に忠実にやるってなんなんだっていう話をすると、ご飯をいっぱい食べて、よく寝ること。もう本当にそれだけでいい。よく食ベてよく寝て、また試合は頑張る。練習からしっかり準備する。もうそれだけでいいんです。それが基本なので。それ以上のことを何もする必要がないですよね」
よく食べて、よく寝る。独特ではあるが、山川らしい表現でもあった。これまでにも気持ちをコントロールすることも「技術」だと話してきただけに、仮に近藤が離脱したとしても意気込む必要は全くない。必要以上に何かを背負って、結果が出るほど「甘い世界じゃない」ことを、誰よりも知っているからだ。どんな時も自分自身にフォーカスし、プロとして徹底的に「不変の準備」を繰り返すしかない。
「それが大事というか、それしかできないことに気付くんですよね。何年もやってると。打席に入った時はボールに集中して、守っている時には状況判断をしつつ、冷静に行動する。それだけの話です。僕たちはそれを持ってここまできましたし、こうなった時も、別に何も変わらないです」
通算249発のスラッガー。一方で870三振を喫するなど、栄光と同じ数だけ悔しさも味わってきた。厳しい時こそ基本に戻り、足元を見て日々を過ごすことは簡単ではない。「それが若い選手はやっぱりできづらいです。なぜかというと、経験値が違いますから」と言う。チームとしてはもちろん、山川にとっても“基本”が試されるような瞬間が訪れるかもしれない。
山川はホークスを「ギーさんのチーム」と語っていた。5月31日に柳田悠岐外野手が右ハムストリングを痛めて離脱した時も、「誰かがいないから俺がカバーすると思っても、思うだけではそうならない。ギーさんに毎日電話するわけにはいかないですから」と話していた。考えたくはない近藤の離脱だが、柳田が負傷した時と比較しても、山川自身の思考は「全く一緒っすね。仕方ないです。近藤さんがいなくなって僕が打ちます、って言いたいところですけど。そんな甘くないです」。信じるのはチームの力と、自分の技術だ。
6月は本塁打ゼロに終わった。首位を走っている中で、1度も動くことがなかったのが「4番・山川、5番・近藤」の並びだった。不振の時は「コンちゃんがこれだけ助けてくれて……」と感謝を語っていた“相棒”とも呼べる存在。シーズンが終盤になっても、山川が寄せる信頼とリスペクトは何も変わらない。
「コンちゃんは、シンプルに一番バッティングが上手なんで。日本で今、一番バッティングがうまいのではないかと。技術的に、野球がかなりのレベルでうまい人だと思うので。そういう意味では、これまでも助けてもらったっていう部分もありますし。ただ、コンちゃんに勝てる部分も僕は持っているつもりではあるので。そこはバランスもありますし、さっきも言いましたけど自分にできることをしっかりやっていく感じです」
優勝へのマジックは「5」となった。目指してきた頂点まで、あと少しだ。「自分たちができることっていうのは、ご飯を食べて寝る。そして試合を頑張るのが基本です。これをやるだけですし、残り全試合やっていけたら、間違いなくいい結果が出ると思います」。どんな時も地に足をつけてきた山川の心は、絶対に動かない。