ピンチの登板を「望んでいた」 マウンドで吠えた長谷川威展…小久保監督「初めて聞いた」

7回のピンチを抑え、マウンドで吠えるソフトバンク・長谷川威展【写真:竹村岳】
7回のピンチを抑え、マウンドで吠えるソフトバンク・長谷川威展【写真:竹村岳】

源田から奪った空振り三振…ポイントは「練習通りだった」3球目

 肌がヒリヒリするような展開で投げたいとの思いを密かに抱いていた。ソフトバンクは8日、西武戦(みずほPayPayドーム)に3-1で勝利した。7回のピンチを凌いだ長谷川威展投手は「僕だと思っていなかったので、本当に恐縮でした」と緊張した様子でお立ち台に上がった。

 この試合最大の山場だった。7回からマウンドに上がった大山凌投手が2四球などで2死一、二塁とし、源田を迎えた場面で小久保裕紀監督がベンチを出た。後を受けたのが長谷川だった。結果はたった4球で空振り三振に仕留める快投っぷり。左打者に対する起用に最高の形で応えてみせた。

 今季から加入した長谷川は開幕1軍を勝ち取ると、この日までに25試合に登板。4勝無敗、防御率2.53という成績を残していた。そんな長谷川が密かに抱いていた思いがあった。それが叶ったこの日のマウンド。渾身のガッツポーズに込めた思いとは、どのようなものだったのか――。

「シーズン前半も途中も、こういう場面って何試合もあったと思うんすけど、左の自分がポンっていけたらなっていう気持ちはずっとあったので。そういった意味では、今日はしっかり抑えることができて嬉しいです」

 抱いていたのは、緊迫した場面で起用してもらいたいという思いだった。開幕から1軍に帯同し、成績を残してきたが、ビハインドの展開で起用されることがこれまでは多かった。それでもこの日は1点リードでの登板だった。長谷川がまさに願っていた理想的な展開。最高の形で起用に応えることができて、「自然に出てしまいました」と、力強く拳を握りしめてベンチへ戻った。

 成績は残していたが、8月26日に出場選手登録から抹消され、2軍での調整を余儀なくされた。「再調整ですね。しっかりとインコースの厳しいところを攻める練習というか、1軍だと簡単に(バットに)当てられたら、また点差が広がったりとかっていうところはあると思うので。しっかりインコースを攻めて、左打者を抑えるということですね」と、左打者の内側を突く投球を課題として与えられていたという。

 1軍に再昇格したのは今月6日だった。10日間、2軍で磨いてきた“イン攻め”の成果は源田の打席で存分に発揮されていた。真っすぐを2球続け、カウントを1-1とした3球目だった。「僕も次の球はインコースの厳しいところを攻めたいと思っていたところで、甲斐さんのサインがインコースだったので」と、内角高めにツーシームを投げ込んだ。2軍で練習してきたボールでカウントを整えると、最後は外角のスライダーで空振り三振を奪った。「練習通りの、という感じですね」。中継ぎ投手として最高の4球を披露した。

 長谷川がファームにいる間に投手陣の状況は一変した。勝ちパターンでも起用されていた藤井皓哉投手が腰痛の影響で1日に抹消されると、5日には守護神の松本裕樹投手も右肩の違和感で戦列を離脱。チームにとって苦しい状況になった。

 そんな状況で長谷川は、チャンスは自分にもあると信じていた。「僕の中では10日間の中で離脱とか色々とあったので、そういう(緊迫した)場面もあるんだろうなと思って準備していました」。自身が望む展開で起用されたときに、期待に応えられるように準備してきた。

 長谷川に対して小久保監督は「そこは素晴らしいというか、左(打者)が2人並ぶところで準備していたんですけど。彼の声(雄叫び)を初めて聞きましたね。あまりしゃべらない子なので」と、冗談を交えながらも好投を讃えていた。

 4連敗で迎えたこの試合は絶対に落とすことができない1戦だった。「常にバッターと1球1球勝負して、攻める気持ちと、コースを間違えないってところです」。この日チームの危機を救った左腕。だれもが手に汗握る展開での登板すべてを、ドームの大歓声に変えて見せる。

(飯田航平 / Kohei Iida)