ぶち上がると思っていた心拍数は、いつもと変わらなかった。冷静さを保ち、鼓動のリズムも普段通り。超満員の本拠地で、ソフトバンクの木村光投手は3日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)で、プロ初登板を果たした。超満員の本拠地だったが「自分が思ってた以上には緊張しなかった」と振り返ったマウンド。試合後、興奮が少し落ち着いた右腕から出てきた言葉は投手として成長させてくれた周囲への“感謝の言葉”だった。
デビューの瞬間は3点ビハインドの5回に訪れた。3番手で登場すると、先頭の郡司にいきなり右前打を浴びた。それでも「自信がある」というフィールディングを披露。上川畑のバントを二塁で封殺するなど、落ち着いたマウンド捌きを披露した。
「スライダーとスプリットがいい感じに投げられていて、バッターの反応的にも全然通用すると思った」。この試合で先頭打者本塁打を放っていた万波からはスライダーで空振り三振を奪うなど、2イニングを投げて被安打2、3奪三振、無失点。堂々の1軍デビューとなった。
育成選手として入団した木村光は昨季、7月17日に支配下選手登録を勝ち取ったものの、度重なる怪我により1軍経験がないまま1年以上を過ごしてきた。「悔しい気持ちは何回もありましたけど、そこでへこんでいるよりも、次どうしていくかっていうのが大事かなっていうのはずっと思っていた」と、ようやく辿り着いた舞台だった。
木村光が本格的に投手を始めたのは中学生の頃だった。「その時の監督に『ピッチャーをしてみろ』と言われて。投げてみたら、スライダーがめっちゃ良かったので。野手だったんですけど、(中学の監督から)高校の監督に『ピッチャーをさせたら面白いよ』みたいなことを言っていただいて。高校でもピッチャーと外野をやっていました」。投手としての才能を見抜き、育ててくれた指導者へ、昇格が決まってすぐに感謝の気持ちを伝えた。
「高校(奈良大付)の監督、(佛教)大学の監督とコーチに電話して(1軍昇格の)報告をしました。『今、スタートラインに立ったところだからしっかり頑張れ』と言ってもらいました。自分は元々ピッチャーじゃなかったんですけど、高校で良くしていただいて。大学でも1年からベンチに入れていただいて。そういういい経験をさせてもらったので、本当に感謝しています」
木村光の周りにはいつも支えてくれる人がいる。それは人柄があってのこと。1軍を告げられたのは2軍の遠征で由宇を訪れている時だった。「中継ぎの方とか、その時にいた先発の人から『頑張ってこいよ』って感じで送ってもらいました」。ライバルたちも初昇格を祝福してくれた。
チーム最年長投手の和田毅投手は、苦悩を抱えていた木村光にアドバイスを送った。「和田さんに投げ方を教えていただいて、そこからタイミングが合うようになって球の出力自体も結構上がっていった」と、23歳右腕の1軍昇格の大きなきっかけになっていた。
そんな和田からは試合後にメッセージも届いた。「試合が終わって、和田さんから(投手陣で作った)グループにLINEがあったので。ありがとうございますと伝えたら『去年より良くなってるよ。一生懸命頑張ったから、それがちゃんと良くなってるから、このまま頑張って』と言っていただきました」と、笑みをこぼす。努力してきたこと、それを見ていてくれたことが何より嬉しかった。
「今年はまず、中継ぎでもどこでもいいので1軍を経験して、ずっと最後まで帯同できるようにしていけたらいいなっていうのは思っていて。自分のやれることをしっかりやるだけです」。多くの支えがあったからこそ立てたスタートライン。これからは結果で恩返しをしていく。