首脳陣3人が語る評価…前田悠伍が2軍で「トップではない」深い意味 求められる「対1軍」の物差し

ウエスタン・リーグのオリックス戦に先発したソフトバンク・前田悠伍【写真:竹村岳】
ウエスタン・リーグのオリックス戦に先発したソフトバンク・前田悠伍【写真:竹村岳】

1軍の首脳陣が視察した試合…前田悠の意識も「自分のいつも通りの投球を」

 順調にステップを踏むドラフト1位ルーキー。1軍昇格への具体的な“距離”はどれほどあるのか、首脳陣3人が明かした。ソフトバンクの2軍は5日、ウエスタン・リーグのオリックス戦(タマスタ筑後)に4-0で勝利した。先発した前田悠伍投手が8回無失点の好投を見せ、4勝目を手に入れた。1軍は緊急事態に陥っているなかで、小久保裕紀監督、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)、松山秀明2軍監督が19歳左腕の評価を語った。

 初回2死一、二塁ではトーマスを中飛。2回も1死一、二塁とされたが堀を二ゴロ併殺に打ち取った。3回以降は「回を重ねるごとに修正していました。チェンジアップとか落ち球は定まっていたんですけど、曲がり球が少し高くなっていたので。初回の1球目からそれができるように」と振り返る。自分自身の状態を素早く把握して、改善をしながらオリックス打線を封じていった。

 試合前の時点で9試合に登板して3勝1敗1セーブ。防御率2.08という内容で、この日が10試合目の登板となった。大きな離脱もなく、高卒1年目のシーズンは順調に経験を積んでいる。1軍戦がなく、小久保監督も倉野コーチも視察に訪れ、直接のアピール機会となったことをどう受け止めてマウンドに上がっていたのか。

「試合前は自分の準備をしていたので、特に話したりもしていないです。見られている意識というよりは、自分のいつも通りのピッチングをするという気持ちでしか投げていなかったです」

 8回無失点という結果を残したが、前田悠の中では“好調”の部類ではなかったという。「高校の時から、いい時ばかりじゃない。悪い時なりのベストを尽くすというのはずっと持っている気持ちです。ゼロ点に抑えたら試合には負けないので」とキッパリ言う。高校生と、プロ野球選手。相対するバッターが変わっても「レベルは上がりますけど、対自分だとしたらやることは変わらない。神経も使いますけど、技術的な部分で変えていることはないです」と言うから、頼もしすぎる。

「自分で『今日は悪いな』って思ってしまったら、悪い方に落ちていってしまう。中学の時はまだそう思って投げてしまっていたんですけど、できるようになったのは高校からですね。『今日は悪い日やな』ってちょっと割り切って考えた方が自分はやりやすいし、そういう気持ちで投げています」

 春先から前田悠が登板するたび、「ほぼ毎回」倉野コーチはオンラインなどでミーティングをしてきた。自分自身をコントロールしながら、最高の結果を出してみせたことに倉野コーチは「今日はその日でしたね。悪いなりのピッチングができたことに価値があります」と頷いた。一方で1軍登板の可能性については、現時点では首を横に振った。

「じゃあ、1軍に置き換えた時ですよね。例えば、3点を取られた(けど、1軍でも抑えるイメージの湧くような)投手と、今日の悠伍のような調子が悪くても0点に抑えた投手がいるとしたら、どっちが1軍に行った時に抑えるんだろうという見方をするんです。もちろん結果としてはこっち(今日の前田悠)の方がいいけど、1軍のバッターになると対応が変わる。要するに、対1軍って考えるとどっちの方が抑えただろう、って言うのが一番の評価になります」

 そして「そういう意味では(1軍候補の)トップではないですね、僕の中では」と付け加えた。チャンスを与えたい気持ちはもちろんある中で、重視したいのは結果よりも内容だと強調していた。優勝へのマジックナンバーは「15」。1軍の現状も踏まえて「2軍投手の中で一番戦力になるという評価をすれば、チーム状況が許せばそうなる(前田悠が1軍登板となる)でしょう。経験させるというよりは、戦力になってもらう」と、姿勢が揺らぐことはなかった。

ソフトバンク・前田悠伍【写真:竹村岳】
ソフトバンク・前田悠伍【写真:竹村岳】

 松山2軍監督も「内容的には今までで一番良くなかったんじゃないですか?」と第一声。2軍で登板した10試合、目の前で左腕の投球を見てきたのだから説得力があった。「ボールの散らばり方とか、不安定でらしくないと思いましたけど。その原因は小久保監督が来ていたから、力みが出たんじゃないですか。でも終わってみればゼロなので」。誰よりも負けず嫌いなことも知っている。19歳らしい、アピールしたい気持ちが前面に出ていたのでは、と推察していた。

 最終決定をするのはもちろん、小久保監督だ。前田悠が投げる姿を見て「あんまり今日は調子が良くなかったと思う。それでも抑えるのは非凡なものがある」と評価する。1軍の可能性については「まだまだ。まだこれからです」と否定した。

 1軍は、残り23試合。シーズンが終わりに近づいている分だけ、前田悠の手応えも「最初に比べればバッターを抑えられるようになってきました。まだまだ実力不足な部分もたくさんあるんですけど、自分的には(1軍レベルが)近づいてきているのかなと思います」と大きくなっている。経験や期待値という要素だけではない。1軍のマウンドに立つ時は、戦力として認められた時だ。

(竹村岳 / Gaku Takemura)