後輩右腕の力を認めているからこそ、マウンド上での姿が我慢ならなかった。2者連続で押し出し四球を与えた津森宥紀投手に駆け寄った今宮健太内野手が、マウンド上でいつになく強い口調で思いを伝えた。
8月28日に長崎で行われたオリックス戦。1点リードで迎えた7回に先発の大関友久投手がピンチを招き、2死満塁でマウンドを降りた。バトンを受けたのは今季44試合目の登板となった津森だった。チームで2番目の登板数を誇り、ここまでブルペン陣を支えてきた右腕だったが、福田と太田に連続で四球を与えて逆転を許した。さらに、森への2球目は腰付近への死球に。まさかの3者連続の押し出し四死球。小久保裕紀監督はたまらず投手交代を告げ、津森はマウンドを降りて呆然とした。
今宮が津森に言葉をかけたのは太田に四球を与えた直後だった。チームリーダーが表情に微かな「怒り」を浮かべた理由。それは、津森本来の姿が見えてこなかったことに対する苛立ちだった。
「(マウンド上での)姿があまり良くないと思ったので。あの場面で投げるなら堂々といってほしかった。僕らも守っていて、ああいう姿は見たくないなと思っていました。それを伝えました」
津森の原点は細かいコントロールを気にすることなく、力いっぱいストライクゾーンにボールを投げ込んでいく投球スタイル。だが、この日は「打てるものなら打ってみろ」の気迫が感じられなかったという。
「ウソでもいいので、ガンと開き直ってね。あいつの持ち球は真っすぐが一番いいと思っているので。それでいって打たれたら仕方ないと僕らも思っていますし。なかなか、あの表情で投げていてもいい結果は生まれない可能性が高いのかなと感じたので。それを言いにいっただけです」
右腕は6日のロッテ戦(ZOZOマリン)、11日の楽天戦(みずほPayPayドーム)で、ともに1死も奪えずに複数失点を喫していた。「ちょっと前から、津森がいい姿で投げられていなかったというのもありましたし。きょうの場面はしんどいんですけど、あそこで起用されたならされたなりに、そういう姿じゃなくてガッといってほしかった」。今宮が望んでいたのは「やられたらやり返す」の精神だった。
対照的だったのが大関の姿勢だった。毎回のように走者を出しながらも、気迫の投球で相手に得点を許さなかった。今宮は「僕らもね、投手をやっていないので。あまり余計なことは言えないですけど」と前置きしつつ「大関と津森を比較した時に、大関はやっぱり気持ちでガンガンいっていました。ああいう姿が大事なのかなって思いますけどね」。津森ならできるはず——。実力を認めるからこそ、マウンドでの表情が残念だった。
小久保監督は試合後、津森に対して「2軍に行ってもらいます」と明言した。「あれじゃ、やっぱり士気も下がるし、大事なところで出せないんで」と説明した上で「最後は大事なところで出せるようなピッチャーとして戻ってきてもらいたい。ビハインドで投げるピッチャーじゃないんで」と突き放すことはしなかった。指揮官の言葉の裏にあるのも、津森への期待と信頼だった。
福岡へ戻るバスに乗り込む際の津森は、さすがに肩を落としていた。「今宮さんにはいつも堂々と投げろと(言ってもらっている)。野手のみんなも、自分が不安そうに投げてるっていうのが伝わってしまったのかなと思うので……」と唇をかみしめた。「(2軍では)自分のピッチングができるようにやっていきたいです」。チームメートも指揮官も、胸を張ってボールを投げ込む津森が戻ってくるのを待っている。