先発転向1年目のモイネロが自身初の2桁勝利&規定投球回に到達
お互いの力を認め合うからこそ、節目にたどり着いた喜びはひとしおだった。先発転向1年目で自身初の2桁勝利に到達し、規定投球回(143イニング)もクリアしたリバン・モイネロ投手。左腕が感謝を口にした相手は、今季全ての登板でバッテリーを組んでいる甲斐拓也捕手だった。
27日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)。先発したモイネロは苦しんだ。初回は押し出しを含む3四球と乱れ、3アウトを取るのに37球を要した。2回も失点こそなかったが、2安打を浴びるなど25球を投げ、立ち上がり2イニングで計62球と球数がかさんだ。「初回は何点取られるのかなと思っていたんですけど……」と小久保裕紀監督が苦笑いするほどの乱調ぶりだった。
5回を投げ切ることすらも危ぶまれた状況で、3回のマウンドに立ったモイネロは別人のような投球を見せた。わずか11球で2三振を奪い、3者凡退に仕留めると、4イニング連続で1人の走者も出さない快投を披露。結果的に109球で6回を投げ切り、許したのは初回の1失点のみだった。見違えるような投球を引き出したのは、甲斐の言葉だった。
「まずは集中してバッター1人ずつに向かっていこうと。先のことは考えず、自分の力を出して1人1人抑えていこうと言ってくれたんだ」。モイネロは“相棒”の一言が立ち直りのきっかけを与えてくれたと明かした。
左腕が続けて口にした言葉からは、甲斐との固い絆を感じさせた。「初めての先発(挑戦)の年で10勝までいくとは自分の中でも思っていなかったので。自分としてはもちろん嬉しいし、甲斐もキャッチャーとして助けてくれて、彼自身も嬉しく思ってくれていると思うよ」。
モイネロの思いを聞いた甲斐は喜びを隠すことができず、表情を緩めた。「それはもちろん、めちゃくちゃ嬉しいですよ。嬉しいっす。1つの節目ですけど、やっぱりやりがいもありますし。キャッチャー冥利に尽きますよね」。
左腕に伝えたアドバイスは一見、普遍的なものにも捉えられるが、それはモイネロに対する信頼感の裏返しだった。「初めて先発をやっていますけど、こっちが心配することはないですね。状態が悪くても毎回試合は作ってくれているので。そこは間違いなくモイネロの頑張りですし、その数字(10勝)に関われることができたのは、本当によかったなと思います」。
甲斐が普段から見ている「頑張り」――。それは試合中にとどまらなかった。「本当に考えながらやってくれているし、あいつの1週間の過ごし方を見ていると、体の状態にすごく気を使いながらやっているので。試合が終わった後もランニングとかもしているので。そこはあいつが本当にすごいなと」。だからこそ、シンプルな助言で十分だった。
モイネロの防御率1.64は、リーグ2位の2.26をマークする楽天・早川に大きな差をつけており、このままいけばタイトル獲得も視野に入る。勝利数もチームメートの有原航平投手(11勝)に1勝差と迫るなど、先発転向1年目とは到底思えない数字が並ぶ。左腕の快進撃は相棒の存在があってこそだ。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)