有原が重田2軍広報に語った…不調時でも変えない思考とは
有原航平投手が2試合連続で6失点を喫した数日後のこと。重田倫明2軍広報は有原と会話を交わす機会があったという。「有原さんを見ていても、そんなに練習しないんです」。選手によっては不調時に何かを変えようとする姿が見られるが、右腕にはそれがなかった。自身の調子によって練習量を変えることのない姿に、重田広報は素朴な疑問を抱いた。
有原は3日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)で7回6失点。10日の楽天戦(みずほPayPayドーム)でも3回6失点と、結果だけを見れば本来の姿とかけ離れたものだった。調子が上がらない中でどのように切り替え、備えるのか。その思考はどういったものなのかを知るために、2戦連続で6失点した直後に練習が行われた筑後のファーム施設で、その心境を尋ねたという。
「仲の良い選手が活躍した時には『ナイスバッティング』とかLINEで送るんですよ。有原さんにも『ナイスピッチング』って送るし、『天才やん』ってタメ語で言えるような関係なので。2試合連続で6失点していたし、今どう苦しんでいるのかなと思って」。こう語ったのは重田広報だ。
重田広報は2019年育成ドラフト3位で国士舘大から入団した。春季キャンプではA組入りしたこともあるなど、2桁の背番号を掴みとるチャンスはあった。しかし、2023年はウエスタン・リーグで6試合に登板し、2勝1敗、防御率3.95の結果。オフに戦力外通告を受け、今は球団広報としての道を歩いている。
どんな仕事においてもうまくいかない時がある。有原に質問をぶつけたのは、プロ野球選手としての疑問ではなく、自身の仕事や、今後のための参考になるかもしれないと感じたからだ。「(有原は)『そういう時もあるでしょう』みたいな感じだったから、『あ、そういう感じなんだ』と思って。そういう時ってどうやって対処していくんですか? っていつもの雑談トークの流れで聞きました」。
心を開いているからこそ聞くことができる。有原がホークスに入団してすぐに、当時現役選手だった重田広報から近づいていった。「僕もカットボールが武器の選手だったので、有原さんと初めて会った時に、すぐにカットボールのことを聞きにいきました。最初の会話がカットボールでしたね」と振り返る。メジャーから日本球界に復帰した有原に対して物おじすることなく技術的な話を聞きに行くなど、貪欲な姿勢が2人の距離を近づけたという。
有原から重田広報にメッセージ…「勝手に喋るなって言っといてください」
重田広報から話を聞かれたことを有原に尋ねると「勝手に喋るなって言っといてください。重田に」と、冗談混じりの第一声。続けて「いいボールを投げたいとか、いいとこに投げたいとかはいっぱいありますけど。そういうのよりまず原点というか、しっかり軸足で立って強いボールを投げるっていう。本当に基本的な、簡単に意識できるところをしっかりやろうっていう気持ちでやっています」と明かす。
「ずっとキャンプからやってきたものもありますし。ここに来ていきなり変えるっていうのは、なかなか難しいと思っているので。若い時は色々変えたりした時もありましたけど、現状はそれが一番僕には合っていると思うので」。いかに良いボールを投げるか、そのためには何をするのかというシンプルな考え方をシーズン通して意識しているという。
その考えは、筑後での居残り練習中でも見られたと重田広報は話す。「見ていても、そんなに練習しないんです。『練習はオフの間にするものだから』って。有原さんクラスのピッチャーって、シーズンを通してどう成績を残すかを知っていて、夏場の見えない疲れを知っているからこそです。成績が悪かったとしても、一番いい状態で投げるためには何をすればいいのかを知っているんです」。
2試合連続6失点で迎えた、16日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)。有原は4安打無失点の完封勝利を挙げた。「間違いなく繋がっていますね。またいいピッチングが続くと思いますよ」と重田広報は笑みを見せる。有原も「僕はこの1年はそれで行こうと思ってるので。これからも頑張りたいなと思います」と頷いた。
23日の日本ハム戦(エスコンフィールド)では、勝敗はつかなかったものの6回5失点の内容。それでも、現時点でリーグトップの11勝と勝ち星を積み重ねている。半年以上にわたるペナントレースを長いスパンで捉えられる“能力”が、エースたる成績につながる。143試合の日程を終えた時、この数字がどれだけ伸びているのか。楽しみにしたい。
(飯田航平 / Kohei Iida)