前田悠伍の“1年前”「勝てるのかな…」 大阪桐蔭で背負った重圧…苦しんでいた体の不調

ソフトバンク・前田悠伍【写真:竹村岳】
ソフトバンク・前田悠伍【写真:竹村岳】

15日のウエスタン・中日戦は8回途中無失点…プロで手応えを感じている“決め球”

 鷹フルでは今季の月イチ連載として、ドラフト1位ルーキーの前田悠伍投手を深堀りしていきます。ウエスタン・リーグでは9試合に登板して防御率2.08と、堂々の成績を残している左腕。それでも高校3年生だった昨年は「もどかしい」状態でした。大阪桐蔭高の西谷浩一監督のコメントも交えて、前田悠の1年間の成長に迫っていきます。プロでも通用すると手応えを感じているのは、高校時代からの“ウイニングショット”でした。

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 15日のウエスタン・リーグ中日戦(タマスタ筑後)。7回2/3を投げて無失点の快投を見せ、2勝目を手にした。8回に2死満塁を招いた場面で降板したが、103球の力投。「最後まで行きたい気持ちもありましたけど」と汗を拭ったが、完封も見える投球内容だった。1年目の今季はウエスタン・リーグで9試合に登板して3勝1敗1セーブ、防御率2.08。7月からは2軍管轄となり、今季中の1軍登板を目指している。

 1年前の7月までは甲子園を目指す高校球児だった。西谷浩一監督も「いわゆる高校野球で言えば、これだけの経験を積める子はめったにいないです。甲子園もそうですし、国体、神宮大会といろんな大会で投げましたので。そういう意味では前田自身もいろんな経験が積めました」と振り返る。そんな左腕は3年春から夏にかけて「もどかしい」状態だったという。今はプロとして確実に成長している左腕が、1年前を回想する。

「選抜で負けて、そこからチーム状況的にも夏に向けてというよりは『夏勝てるのかな』っていう、そういう空気がありました。なかなか練習試合で勝ちきれないことも多くて、チーム状況的にはあまり良くなかったと思っていましたし、自分的にもいい状態ではなかったので。夏はぶっつけ本番というか、(状態を)合わせられたらと思っていました」

 新チームからはキャプテンとなって、秋の神宮大会では全国制覇を果たした。年が明けた春の甲子園でもベスト4に進出し、「春の大阪大会、近畿大会はベンチには入らずにトレーニングと言われていた。その期間にコンディション不良があって、そこからトレーニングというところに重点を置いてやっていました」と語る。集大成となる3年の夏に向けて、気持ちを高めていく一方で、体の状態はなかなか上げられずにいた。

 その姿を西谷監督も「ちょっと春先からコンディションが悪いところもあったので、(強度を)抑えながらやっているところもありました」と振り返る。2年の夏までに2度の甲子園を経験したが、当時は下級生。キャプテンとなったことで「多分、もどかしい中でやっていましたし、自分のことだけでなくチームのことも考えれば、下級生の時に伸び伸びやっていたのとは違いますよね」と代弁した。背負うものが大きくなったことが、無意識に重圧へと変わっていたのかもしれない。

 時間は待ってくれない。エースナンバーを背負って最後の夏を迎えた。順当に勝ち進み、2023年7月30日に決勝戦を迎えた。結果は履正社高を相手に0-3で敗戦。3年間の“青春”は幕を閉じ、「もう高校野球が終わると思うと悲しかったですし、最後は甲子園に行って終わりたかった。甲子園に行けなかったのは寂しい思いがあって、切り替えるには時間がかかったんですけど。自分はアンダー18があったので、そこに向けてやっていこうと」。8月末から行われた「第31回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ」に選出され、次のステージに向けて気持ちを新たにした。

「松尾(汐恩捕手、DeNA)さんからも『引退してからの期間が大事』だと言われていました。2つ上でプロにいった松浦(慶斗投手、日本ハム)さんとか池田(陵真外野手、オリックス)さんとかもこの期間にしっかりと練習されていた。この期間をおろそかにしたら、活躍できないと思っていました」

ソフトバンク・前田悠伍(右)【写真:竹村岳】
ソフトバンク・前田悠伍(右)【写真:竹村岳】

 プロ志望だった前田悠は、ドラフト会議を経てホークスの一員となった。シーズンは8月となり、現在の管轄は2軍。早くも1軍のローテーションを争うだけの結果と実力を見せている。今月15日の中日戦、無失点投球の中で光っていたのがカーブだった。「真っすぐが浮いていて、頭が突っ込んでいた。それをカーブを使いながら回を重ねていくうちに修正できました。僕は突っ込む癖があって、カーブはそれを修正できる球種です」。スムーズな体重移動を意識させてくれるカーブを混ぜながら、中日打線を封じた。

「チェンジアップは決め球として使える」と、アマチュア時代からのウイニングショットには今も自信を抱いている。プロ野球選手となって数か月が経ち、改めて手応えを感じているのはどんなところなのか。

「やっぱり真っすぐが特別速いわけではないので、変化球とのコンビネーション。そういうところで抑えていく投手だと思っています。真っすぐを消してしまうと変化球が生きないので。今は変化球で抑えられている部分はあるんですけど、真っすぐで抑えられる投手になりたいと思っています。(プロとして手応えを感じているのは)今のところは一番、チェンジアップですかね。最近はカーブの曲がりも良くなってきているので、そんなところです」

 プロ初登板となった4月20日、ウエスタン・リーグ広島戦(タマスタ筑後)では自らのベースカバーが遅れて失点を喫した。プロならではのスピード感も、身を持って体感しているところだという。「ベースカバーは自分の練習のやり込み次第と思っています。相手に合わせるんじゃなくて、自分のマックスのスピードを出せたら。それを本番で出せるような練習をしていないといけない」。1年前に抱いていたもどかしさは、もうない。足元を見つめながら語る前田悠伍の表情は、立派なプロ野球選手だった。

(竹村岳 / Gaku Takemura)