和田毅が筑後で主催したBBQ…若鷹に「言わないといけない」 激白した契約更改での苦言の真意

筑後で主催されたBBQの様子【写真提供:瀧本将生】
筑後で主催されたBBQの様子【写真提供:瀧本将生】

「ああいう場でしか話せないこともあるだろうし、話したくなることもある」

 8月の上旬。ファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」でリハビリ組の選手や、寮生、コーチ陣が集まった。和田毅投手が主催したバーベキューだった。「自分がやりたかったのがもちろんで、それが一番なんですけど」。どんな思いで若鷹たちに呼びかけて、一緒に食事をする機会を作ろうと思ったのか。単純な毎日の中で、和田なりの“キッカケ作り”だった。

「リハビリってどうしても単純作業。寮生もなかなか外に出られないだろうし。なんかちょっと気分転換じゃないですけど、そういうのができたらなと思っていました。あとは、コミュニケーションですね。コーチとか、裏方さんもそうですし。寮生同士で話したことがないって子はいないと思うんですけど。ああいう場でしか話せないようなこともあるだろうし、ああいう場だから話したくなることもあるだろうし。お酒もあってね」

 復帰を目指す選手たちだが、リハビリの日々は退屈なもの。少しでも気分が変わることを願って、企画をした。「同じような毎日だし、筑後も遠いし。リハビリをしに往復2時間かけていくのも、それだけで体の疲労もある。そういう意味でも気分転換じゃないけど、なんかプラスに話ができたり、リハビリのちょっとした辛さというか、メンタル的なモヤモヤも解消できたら。また頑張ろうと思えるような空気が作れたらと思ってやりました」と続けた。

 実は3回目の開催だったという和田主催のバーベキュー。「僕がリハビリにいた時なので17年、18年とかだったかな。ちょうど肘を手術をした年と、全く投げられなかった1年間、リハビリだったので」と振り返る。2020年からはコロナ禍もあり「本当はやりたかったんですけど、当たり前ですけど許可をもらえなかった。今年は自分がこっちにいるから、できないかなっていうのは思っていました。それでOKもらいました」と、数年越しの実現が叶えられた。

ソフトバンク・和田毅(左)と佐々木明都【写真提供:佐々木明都】
ソフトバンク・和田毅(左)と佐々木明都【写真提供:佐々木明都】

 リーグ最年長の43歳。和田から若手たちに目線を下ろしたかのように見えるが「普通というか、下ろしているつもりはないですよ。話したいこともありましたし」と小さく頷く。和田も今は、登板日以外はリハビリ組に入って調整をしているだけに、苦しむ選手たちの姿も近くで見ている。「同じ作業をずっと続けているし、武田なんてトミー・ジョン(手術)でね、なかなか光が見えないというのもあるだろうし。なかなかキッカケなんて(自分で作るのも)難しいでしょう」と、和田なりの思いやりだった。

 昨年12月の契約更改。和田は育成選手に対して「ユニホームを変えてもいい。ソフトバンクホークスというチーム名を背負ってプレーができるのは本当に贅沢なこと。それを認識して日々を過ごしているのか、疑問に思うことはたくさんあります」と苦言を呈した。シーズンは8月に突入して、ファームで調整する今。目を輝かせて助言を求めてくる選手も少なくない。距離感が縮まったことで、若手たちの姿に何を感じているのか。

「本当、人それぞれだなっていうか。全員が全員、そういうふうではなくて、僕が(契約更改の時に)言ったのは本当に少人数に向けて、だった。全員が全員だとは思っていないですし、ハッパをかける意味でもありました。リハビリにいる、下にいるということは1軍の選手と同じことをしていてはいけないです、絶対に。レベルアップするために1軍も同じことをやっていますから。1軍の2倍、3倍はやらないと彼らに追いつくこともできないだろうし。そこは、わかっているんでしょうけど、言わないといけないなって思ったので」

「みんな一生懸命にやっているのはわかっているんです。手を抜いてやっているだなんて思っていないです。でも、彼らの一生懸命と、1軍の一生懸命が同じレベルだとしたら、一生追いつけないということになる。1軍の2倍、3倍しないと。まず追いつくこともできないと思うので。僕はそこは、早いうちに言わないといけないなって。辞めてから、クビになってから『もっとやっておけば……』っていう選手を何人も見ているので」

 志半ばでユニホームを脱ぐ選手たちを見てきた。全てが終わってから後悔していては遅いのだと、和田は言う。「コーチがいくら言っても、やるのは選手ですから」。契約更改の場で口にした苦言は、現役選手である和田が言ったからこそ価値があった。「僕も若い時から人並み以上にはやってきたつもりですから、自分が言っても大丈夫かなって思いました。自分が練習しない人間なのに言っちゃいけないですけど。もっとやっている人もいると思いますけど、自分も人並み以上にやってきた自負はあるので」。自分が1軍に戻ることが最大の目的だが、一流選手としての背中を今、筑後で後輩に見せ続けている。

 現役でいられる時間は限られている。今はリハビリ組で辛くとも、時間は待ってくれない。何かのキッカケになることを祈って主催したバーベキューだった。「隠れて練習している子もいると思います。やらないといけないよねって、自分が『足りないのかな』って気づいてもらえたら。辞めてから、クビになってからトライアウトに向けて死に物狂いでやるくらいなら、1年間、これだけ時間はあるわけですから。結果を出せるチャンスはある」。練習は嘘をつかない。和田毅が言うから、意味がある。

(竹村岳 / Gaku Takemura)