屈辱の「通用しない」から1年で劇的進化 松本晴が出会った元CY賞右腕の“秘密兵器”

ロッテ戦に先発したソフトバンク・松本晴【写真:栗木一考】
ロッテ戦に先発したソフトバンク・松本晴【写真:栗木一考】

18日のロッテ戦で2年目左腕の松本晴がプロ初勝利…昨季は「7.11」も

 1軍の高き壁に跳ね返された左腕が、1年の時を経て待望の瞬間を迎えた。ルーキーイヤーの昨季は3試合に登板して0勝1敗、防御率7.11。「1軍では全く通用しなかった」。その思いだけを胸にひたすら腕を振り続け、念願のプロ初勝利を自らの力でつかみとった。

 18日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)で先発マウンドに上がったのは、今季初登板初先発となった2年目左腕の松本晴投手だった。「初回からめいっぱい飛ばしていきました」との言葉通り、150キロに迫る直球で相手打線をねじ伏せた。5回を投げて許した安打はわずか2本。無失点の快投でチームを勝利に導いた。

 逆襲を誓った今季、3月下旬に右脚の肉離れに襲われた。3か月もの間、実戦マウンドから離れ、リハビリに励む日々が続いた。下を向いてしまいそうな期間を、左腕はプラスに変えた。「確実にレベルアップできたと思います」。進化のきっかけは、元サイ・ヤング賞右腕が携わる「アプリ」との出会いだったという。

 右脚を故障した直後、トレバー・バウアー投手が開発に携わった投球解析のアプリを取り入れた。自身の投球映像を緻密に分析してもらい、弱点を改善するためのドリルも渡されたという。日本語に対応しておらず、文章はすべて英語だが、松本晴の意外な「才能」が生きた。

プロ初勝利を挙げたソフトバンク・松本晴(右)と小久保裕紀監督【写真:栗木一考】
プロ初勝利を挙げたソフトバンク・松本晴(右)と小久保裕紀監督【写真:栗木一考】

「僕が国際保育園に通ってて、お母さんは昔に留学していて英語がペラペラなので。ある程度、英語を読むことはできます。それでも分からないところは自分で調べて」。1回のアプリ使用料は約4万円と高額だが、自らの成長のために出費はいとわなかった。

 最近の野球界ではもはやトレンドとなりつつあるデータ分析だが、松本晴は「もともと好きじゃないです。苦手です」ときっぱり言い切る。それでも「やっぱり自分のためなので」と慣れない指標を理解しようと懸命に取り組んだ。「やってよかったですし、自分にとって大きかったですね。しっかり見つめなおすことができたので」。

 松本晴の投球を倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)も絶賛した。「期待通りのピッチングをしてくれましたね。ファームの映像とか報告からしても、個のピッチングができる可能性があると僕も思っていたので。予想の範疇の中で一番いい結果だったかなと思います」。

 プロ初勝利を挙げた18日、観戦に訪れていた母親の前で雄姿を見せることができた。お立ち台では家族に伝えたい言葉を問われ、「あざっす」と軽すぎるノリも披露した松本晴だが、先を見据えて表情を引き締めた。「まだまだ足りないことは多いので。しっかりチームの力になれるよう頑張らないと」。自らを変えた左腕の成長は計り知れない。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)