ウエスタン・リーグの阪神戦で5回4失点…今抱える「難しいところ」とは
2軍での日々を、どんな心境で過ごしているのか。「考えれば考えるほど苦しいですけど……」。ソフトバンクの2軍は18日、ウエスタン・リーグの阪神戦(タマスタ筑後)に臨み5-6で敗戦した。先発した板東湧梧投手は5回4失点で勝敗はつかなかったが「良くなかったですね」と結果を受け止めている。「ここ最近、こんな感じです」と淡々と話した。板東を苦しめている要因は「出力」にある。
初回と2回は、6つのアウトを内野ゴロで記録する。順調だった立ち上がりが一転したのは3回だった。1死一塁から戸井に左翼線への適時二塁打を許し、高寺&遠藤と連打される。4番の井上にも適時打が飛び出し、この回だけで5安打4失点。その中でも「井上選手に打たれたのは防げましたね。あれは良くなかったです」と言う。5回を投げて65球、無四球だったが6安打を浴びるという内容だった。
8月18日を迎えて、今季はまだ1軍登板がない。首位を走るチームの厚い選手層に阻まれている。板東が苦しんでいるのが、出力の面だ。原因は「いっぱいあります」と言いながら、自分自身の現状について口を開いた。
「球に力がないって言うのが一番です」
春季キャンプ中も、紅白戦で最速は143キロだった。今季ウエスタン・リーグでは10試合目の登板。4月末に背中を痛めてリハビリに費やした期間もあった中で、今も「今季」の最速は144キロにとどまっている。「前回(8月11日の広島戦、由宇)の登板から感覚は掴みつつあったんです。その感覚が見えていた中でできないっていうもどかしさはありました。振り返ると(要因は)あるので。今回の登板は、自分の中ではいい感覚は見えている。そのアプローチは明確です」と、一進一退のような状況だ。
この日の2回無死、阪神の井上を打ち取ったのは内角のツーシームだった。昨シーズンまでも使っていた球種だが「割合は多くなっていますね」と語る。出力に悩みながらも、今の自分で打者を打ち取る術を探しているが「でもそれは、小手先のかわすピッチングにどうしてもなってしまう。逃げすぎるのも良くないですし、やっぱり真っすぐが課題です」と受け止めるしかない。
また、縦スライダーのような斜めに滑る変化球も見せていた。スライダーにも球速差をつけているように見えたが「あれも、カットボールなんです。それも出力が出ていないから、ああなっているんです」と、直球に対する苦悩は別の球種にも表れていた。緩急を生かす投球も身についてきてはいるものの「真っすぐが上がってこないことには、ですね」。まさに、板東の現状だった。
「そこ(出力)にフォーカスする割合っていうのは、春先からずっとやってきた中で波もあるんですけど。長い目で見ても、出てほしい部分ではある。それだけに捉われているわけではなくて、結果的に出ればいいなとも思いますし、難しいところですね」
小笠原孝投手コーチ(チーフ)は、どう見ているのか。出力について「やっぱり今日なんかも物足りないし、それは本人も感じています」とキッパリ言った。「前回、前々回の登板から少しずつ出せるようになってきて、ずっと出力を上げるドリルを継続しています」といい、今回の阪神戦にも「2日前のブルペンでは一番出力が出ていたんです。それが、試合では出せていないし、試合で出せないと意味がない。本人が一番歯がゆいと思います」。復調の兆しは、確かに感じ取っていた。
投球の中でも緩急をつけるなど、工夫はしている。その上で小笠原コーチは「もともと出力が出ていた選手じゃないですか。それを『戻す』ということなんです」と表現する。板東の場合は、球速の最大値を上げるのではなく、かつては出すことができていた姿に「戻す」必要があるというわけだ。「野球界においてはまだまだ若い。簡単なことではないんですけど、もっと出せるようになると思います」と、首脳陣にとっても高い期待を抱いている選手であることは変わっていない。
シーズンが始まって、108試合を消化した。1軍登板がないという現実を踏まえつつ、胸中を問われると「考えれば考えるほど苦しいものはありますけど、やれることをやるしかない。その時間を大切にしています」。振り払うようにして、目の前に集中している。1軍の試合にも「見る時は見ますし、あんまりどうこうは考えていないです」と言うのも、自分自身の課題と真っすぐに向き合っているからだった。
取り組む姿勢に小笠原コーチは「真面目も真面目。目の前のことを徹底すれば(良くなっていく)という話は常にしています」と代弁する。一進一退という状態を、板東が誰よりも自覚している。「144キロっていうのはずっと頭に残っていますし、1キロでも速くって毎試合臨むんですけど、なかなか思うように行かないので。苦しいといえば苦しいです」と苦悩も明かした。「前を向いてやるしかないですね」。マウンドで板東の笑顔を見られる日まで、信じて応援していたい。
(竹村岳 / Gaku Takemura)