前田悠伍だけの「特別強化プログラム」 首脳陣とのZoom…エースになるために敷かれた“レール”

ソフトバンク・前田悠伍【写真:竹村岳】
ソフトバンク・前田悠伍【写真:竹村岳】

倉野信次コーチも「2軍で競争してもらいます。そういう時期にきた」

 ソフトバンクの前田悠伍投手は、大阪桐蔭高からドラフト1位で入団して1年目のシーズンを過ごしている。ウエスタン・リーグでは7試合に登板して1勝1敗1セーブ、防御率2.12。7月下旬からは、2軍管轄となり倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)も「2軍で競争してもらいます。そういう時期に来たと思いますので」と、1軍のローテーションを狙うスタートラインにまで立つことになった。

 直近の登板は8日、ウエスタン・リーグの中日戦(バンテリンドーム)だった。5回3失点で初黒星を喫し、「4回、5回は点を取られてしまいましたけど、それ以外は三振も多く取れましたし、バッターの反応も自分が調子のいい時の反応だったので、よかったです」と前向きに振り返る。8三振の内容にも「真っすぐでもファウルが取れましたし、その日はカーブも使っていました。カーブが有効的だったので、そこがよかったです」と手応えを感じている。

 7月22日から25日までの4日間、チームは試合がなかった。オールスターで世間が盛り上がる中で、前田悠は1軍の練習に参加していた。25日には、みずほPayPayドームでライブBPに登板。倉野コーチとのやり取りを「『ここから競争してもらう』と言われました。あとは技術面のことでした」と明かす。倉野コーチが語る「特別強化プログラム」が、順調に進んでいる証だ。

「今は2軍の輪の中に入っているのでそこまでなんですけど、これまでは『特別強化プログラム』としてやっていました。その一貫として、全体のミーティングというのはやっていましたね。今は2軍の管轄になったので、そんなに頻繁ではなくて、節目節目でやっていくつもりです」

 全てではないが「ほぼ毎回」、ミーティング用のアプリケーション「Zoom」を使用して投球内容を振り返る。もちろんそこには前田悠も参加し、画面越しに投手のコーチ陣と擦り合わせる。「他の投手はやらないですね。僕がやりたいなと思った時だけというか、頻繁にやるのは前田悠伍だけでした。みんながみんな、やっていないわけではないです」と倉野コーチ。前田悠に歩ませたい未来がブレないように、首脳陣からのフィードバックを欠かさず、ここまでのシーズンを送ってきた。

 1月の新人合同自主トレ中、投手が管轄であるコーチ陣が集まって、前田悠のプロセスについて話し合った。「自主トレの前ですね。『前田悠伍に関してはこういうふうに行きましょう』」と、大まかな方向性を決めた。その後も「キャンプ前とキャンプの後だけでも、下方修正も上方修正もしながら。その都度でコーチ陣が話し合っている感じです」と擦り合わせる。前田悠だけの「特別強化プログラム」。左腕が持つ才能が花開くように、大切に育成を続けてきた。

ソフトバンク・星野順治コーディネーター(投手)【写真:竹村岳】
ソフトバンク・星野順治コーディネーター(投手)【写真:竹村岳】

 倉野コーチに加え、Zoomでのミーティングに必ず入るというのが星野順治コーディネーター(投手)だ。今季からは4軍が設立されて、コーディネーターという役職が本格的にスタートした。1軍から4軍まで、1人の選手に対する指導を統一して、より早い成長を目指すことが目的で「(前田悠に関しては)入念に倉野コーチと擦り合わせてスケジュールを組んでいますし、登板間隔の確認もします」と言う。内容についても「その登板の振り返りや、悠伍君自身が感じたこと、次はこういう登板にしようというものです」と明かした。

 1回のミーティングは15分ほど。前田悠が3軍戦に登板すれば、参加メンバーは「基本的にはヘッドコーディネーター(倉野コーチ)、自分、その軍のチーフです」とが明かす。1軍なら倉野コーチが背負う「チーフ」の肩書き。1人ずつ紹介すると2軍なら小笠原孝投手コーチがいて、佐久本昌広3軍投手コーチ、川越英隆4軍投手コーチと続いていく。全ての投手を巡回して見守るために、各軍の投手ミーティングに必ず参加するのが星野コーディネーターの大切な仕事だ。

 前田悠自身も「やっぱりありがたいこと。それだけやってもらっているので、応えられるように、いい成績を残せるように」と言い聞かせて、期待を背負っている。抱いている理想像も「1軍で活躍できる選手になりたい。倉野さんも仰っていたんですけど『1軍で投げて、ちょっとしたらファームに落ちて、また調子が良くなったら上がる』っていう選手じゃなくて、ずっと1軍で投げられる投手になりたいと思っています」と明確だ。宿命づけられた「ホークスのエース」という道を、一歩ずつ、丁寧に歩んでいる。

「素晴らしいコーチの方と出会えたことは自分にとってプラスになると思います。高校の時も西谷(浩一)先生に出会えて、プロでも倉野さんに限らずいろんなコーチの方と出会えて、本当に恵まれているなと思います」

 倉野コーチは、1軍のローテーションを狙う競争に飛び込ませると明言した。前田悠は「まだまだ課題はありますので、その課題を潰さないと。自分的にはスタートラインに立てないと思うので、1軍に呼ばれた時にいい投球ができるように」と足元を見つめる。次回登板は15日、ウエスタン・リーグの中日戦(タマスタ筑後)の予定。誰よりも野球に対して真っすぐに向き合う前田悠なら、必ず才能は花開く。

(竹村岳 / Gaku Takemura)