一睡もできず「朝5時まで」…1軍の緊張と興奮で“フラッシュバック” 大山凌、プロ初先発の夜

ソフトバンク・大山凌【写真:竹村岳】
ソフトバンク・大山凌【写真:竹村岳】

7月17日のロッテ戦でプロ初先発…父と熱を帯びた野球談義が「細かいところも」

 いつの間にか時間が経ち、空は明るくなり始めていた。プロ初先発の夜だった。「いろいろ考えていたら、朝5時とかになってたんで」。ドラフト5位ルーキーの大山凌投手が振り返る。プロ初先発を託された、7月17日の出来事だ。ロッテ戦(みずほPayPayドーム)で3回3失点に終わった後、悔しさを胸にどんな夜を過ごしたのか。

 この日まで6試合に登板し、11イニングで1失点、防御率0.82。アピールに成功し、念願の1軍での初の先発の機会を手にした。だが、結果は3回6安打3失点で降板。味方が逆転勝利に導いてくれたことで、敗戦投手こそ免れたが、悔しい初先発となった。あれから9日後の26日、ウエスタン・リーグのくふうハヤテ戦(タマスタ筑後)で大山は先発し、2回3安打無失点に抑え、こう語った。

「だいぶ飛ばしていった。ストレート自体は多分すごく力もあって、思うように投げられていたんですけど、変化球が高いのが初回に目立ったんで、次の回ちょっと修正はできたんですけど、初回が結構大事なんで、次は入りからちゃんと低めに制球できるようにっていうのが課題です」

 1軍での反省を踏まえ、次に向けての2軍調整登板だった。日々課題も見つかるが、大山は静かに闘志を燃やし、次を見据える。

 時間が経ってみて振り返ると、1軍初先発は「『先は考えなくていいから、初回から全力で』って言われていたし、調子自体も別にそんな悪くはなかったんですけど、なんていうんだろう……。先発の難しさっていうのは、すごく感じた試合でした」と言う。調子も悪くなかっただけに、思うような結果を残すことができず、悔しさが募るマウンドだった。

「やっぱりまだ変化球っすね。もう1つ低かったり、ちゃんとコースに投げきれてたらっていうのがすごい多かったんで。先っちょで当てられてヒットとか、そういうのが多かった。そこの制球力が先発するには足りないなっていうのは思いました」と分析する。より細かい部分が1軍では明暗を分けることも思い知った。

「そんなに元々引きずらない方なんで」と割と早い段階で次に向けて気持ちを切り替えられていたそうだが、初先発した日の夜は、さすがにそうもいかなかった。「落ち込んだというか、なんか夜、ホテルの部屋に帰って結構いろいろ考えていたら、朝5時とかになってたんで」と明かす。

 試合後は、地元・栃木から応援に来てくれた家族と会って話をした。中でも、父とは熱い野球談議。大山は「(父は)結構、野球詳しいっていうか、見てるんで、すごく細かいところも話しましたね。父は、元々剣道やってたのもあるし、仕事もトラックの運転手なんで、すごい固いというか、きっちりしてるんです」と職人気質で真面目な父と会話を思い返す。

 午後6時から始まったナイターは午後8時51分に終わった。その後に約2時間、家族との時間を過ごし、宿泊先の部屋に戻ったのは深夜1時30分頃だった。そのまま大山は部屋の椅子に腰掛けると「なんか投げてたところを思い返しちゃって。勝手に出てきちゃったんです。多分、お父さんと話して1回思い出しちゃったから、寝れんかったのかも」といつの間にか時間が経っていた。「気付いたら、外が明るくなってきたんですよ」。朝日が差し込んできて、驚いた。時計を見たら午前5時だった。

 当然、焦った。その日は10時からファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」での練習日。「やばいと思って、1時間だけでも寝ようと思ったんですけど」。練習に備えて少しだけ仮眠するつもりだったが「めっちゃ焦って飛び起きたんですよ。気付いたら1時間どころじゃなくて。時間ギリギリに起きてしまって。元々は(博多から)新幹線で筑後に帰るはずだったんですけど、ちょうどいい時間のがなくなっちゃって、タクシーで筑後まで帰ってきました」と苦笑い。初先発からのドタバタ劇を明かしてくれた。

 試合で味わった緊張と興奮で眠ることができない。そんな経験も含めて“1軍を知る”ということだ。8月1日の楽天戦(東京ドーム)、2度目の先発チャンスを与えられた。今度こそは家族に勝利を届けてほしい。父と勝利を祝える夜にしてほしい。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)