「引きずってもいいことはない」 サヨナラで真っ先に飛び出し…2軍でも変わらないウォーカーの姿勢

サヨナラ打を放った廣瀬に駆け寄るソフトバンクのアダム・ウォーカー(左)【写真:飯田航平】
サヨナラ打を放った廣瀬に駆け寄るソフトバンクのアダム・ウォーカー(左)【写真:飯田航平】

「喜べるところは喜んで、みんなで楽しんでっていうのは心がけています」

 誰よりも先に、ヒーローへと駆け寄った。どんな時も変わらない、その姿勢。ソフトバンクのアダム・ウォーカー外野手が全力で野球に向き合い、野球を楽しんでいるからこその姿だった。

 舞台は7月15日にタマスタ筑後で行われたウエスタン・リーグのオリックス戦だった。3-3の同点で迎えた9回2死二塁の場面で、代打として送られたのは廣瀬隆太内野手。この日に2軍降格となったばかりのドラフト3位ルーキーは右翼へサヨナラ適時二塁打を放った。1軍遠征先の札幌から帰福し、試合途中からベンチに入り、そして決勝打を放った。

 サヨナラの瞬間、廣瀬に真っ先に駆け寄ったのがウォーカーだった。「サヨナラ勝ちは1番喜べるところだと思うので、1番最初に行きました。『誰よりも1番に』というか、サヨナラのチャンスで打って、一目散に、いち早く行きたいので」とウォーカーは笑う。2軍といえど、チームの勝利を喜ぶのは変わらない。むしろ、喜びが控えめだったチームメートたちに「あまりみんな来なかったから『なんで?』って」と笑顔で不思議がるほどだった。

 この日は「6番・DH」で先発出場していたウォーカーは、9回1死二塁の好機で代打を送られていた。4回の第2打席では本塁打を放っていたが、これは編成上、予定通りの交代だったという。試合を決められる打席に立ちたかったはずだが、そこは意に介さない。

「自分もチームの一員として戦ってるんで、チームがまず勝つこと。(自分の代打だった)嶺井もあとちょっとでヒーローになれたけど、なれなかった。やっぱりそれが野球だと思うので。野球は難しいスポーツだけど、そうやって楽しめるところは、チームとしても個人としても楽しんでやっていきたい。それが面白いところだと思う」。自分の結果や状況に関わらず、野球を楽しむことを大切にしている。

 ウォーカー自身、4月末に出場選手登録を抹消され、その後は2軍暮らしが続いている。なかなか安定して結果が残せていない現状にあるも、練習に取り組む姿勢がブレることはない。自身の状態の良し悪しに関わらず“フォア・ザ・チーム”の精神を貫く。2軍には若い選手も多く、自分のことで精いっぱいになってもおかしくない。そんな中で、ウォーカーの姿は印象的だ。

「自分にもいい日、悪い日、いい打席、悪い打席がいっぱいあるんですけど、1つずつ、終わったことは忘れる。よかった時はその瞬間喜んで、悪かった時は忘れて、次に次にどんどん行かないと。野球って難しい、簡単なスポーツではないので。でも、チームとしてやっているので、喜べるところはしっかり喜んで、みんなで楽しんでっていうのは心がけています。悪い日だったら、その日のうちに忘れて、また新しい次の日がやってくるのでしっかり準備して。そういう風に自分は割り切ってじゃないですけど、考えてやっています」

 現状を冷静に受け止めるウォーカーだが、最初からこう考えられていわけではない。「自分も若い時はいろんな経験をしました。何度もチームからリリースされたこともあるんですけど、そういう中で引きずってもいいことはない」。2022年に巨人入りするまで、母国アメリカでプレーしていた。メジャー昇格は果たせず、マイナーリーグの複数球団や独立リーグを渡り歩いた。独立リーグで2020年、2021年と2年連続でMVPを獲得。その後、日本球界にやってきた苦労人だ。

 苦労した経験があるから「引きずって、グチグチ、ネチネチ、いろんなことを自分で考えたり言ったりするのはいくらでもできると思うんです。でも、そうではなくて、何がいけなかったからそうなったのかっていうのを考えるようになって、そこから物事はよくなっていきました。なので、なぜこうなったのか自分の中で問いかけて、しっかり次に生かせるように。同じ失敗は繰り返さないようにっていう風に今は考えてやっています」と語ることができる。

 調子が良い時こそ大事にすることでもある。「気持ちの部分だけでやっていると、いずれ調子が悪くなった時に、なぜ悪くなったのかに気付けない。いい時でも悪い時でもしっかり考えながら、感情に左右されてプレーしていると、いずれ落とし穴がやってくる。そういうのは自分の経験の中で学んだことなので、すごく大事にしています」。目の前の結果は自身の状態に一喜一憂することなく、やるべきことに黙々と取り組むのは、こうした経験に基づいているからだ。

 2軍暮らしが続くが「状態としては上がってきています。ただ、やっぱり試合でプレーしないと難しい所もある。先週、先々週と2軍戦が雨で中止になったんですけど、その中でもしっかり打ち込んだり、3軍の試合に出させてもらったり、試合が出来るありがたみを感じながら、毎日を一生懸命やりたい」と語る。頭は冷静に、心は熱く――。いつでもチームのためにプレーし続けている。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)