黙って隣へ…今宮健太が発した“一言” ベンチで杉山一樹に寄り添ったチームリーダーの思い

ソフトバンク・杉山一樹(左)と大関友久(右)の間に入り、戦況を見つめる今宮健太【写真:竹村岳】
ソフトバンク・杉山一樹(左)と大関友久(右)の間に入り、戦況を見つめる今宮健太【写真:竹村岳】

アイシングもせずベンチから試合を見守った杉山「この思いを忘れることはできない」

 自身の降板から試合が終わるまでのおよそ1時間、杉山一樹投手は一塁側ベンチの端でグラウンドに身を乗り出しながら試合を見続けていた。登板後のアイシングをすることなく、その場から動こうともしなかった。「自分のせいで試合を壊してしまった。自分のことをするよりも、チームが勝つことが第一なので……」。その表情は悔しさに満ちあふれていた。

 15日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)。1点リードの7回無死満塁で、先発の大関友久投手からバトンを受けた。先頭の田村にフォークを4球続けて3ボール1ストライクとなると、5球目も低めに外れて四球。押し出しで同点に追いつかれた。続く代打の藤岡は空振り三振に切って取ったが、そこから2者連続で押し出し四球を与えて降板。3番手の又吉克樹投手がソトに3ランを浴び、試合の大勢は決した。

 ホークスの9回の守備中、ベンチで見守っていた大関と杉山の間に位置取るように今宮健太内野手が入った。会話をほぼ交わすことなく、グラウンドを見つめる3人。柳田悠岐外野手が離脱している中でチームを引っ張るリーダーの行動を杉山はどう感じたのか。

「今宮さんから『しっかりしろよ』って。情けないっす」。発されたのは一言だけだった。杉山の抱える悔しさはベンチ内にも十分に伝わっていた。チームメートが声をかけることすらはばかられる雰囲気の中で、今宮はじっとそばに立ち、グラウンドを見つめた。

 7回、田村に押し出し四球を与えた直後に今宮がマウンドに駆け寄ってきた。「お前が出てくるってことはイチかバチかなんだから。思い切っていけ」。そのゲキは右腕に伝わった。「今宮さんの言葉で藤岡さんに対しては思い切りいけたので。だからこそ、その流れを自分の投球で断ち切ってしまったことが何より悔しかった」。極めて厳しい場面での登板。杉山が悔やんだのは、自身の姿勢だった。

杉山一樹に声をかける今宮健太(左)と牧原大成【写真:竹村岳】
杉山一樹に声をかける今宮健太(左)と牧原大成【写真:竹村岳】

「僕は四隅を狙ってっていう感じじゃない。パワーで押し切るピッチングを首脳陣の方も考えて出してくれたと思うので。そこで自分がフォーク、フォークで交わすようなピッチングをしてしまった。失投で(長打を打たれて)大量失点というのが一番嫌だった。フォークも全部低めに投げようとして、真っすぐも(高めに)抜けないように抑えたら下にいってしまったので。真っ直ぐで押し切れるくらい、いきたいですよね」

 7回のロッテの攻撃が終わって、スコアは2-8。ベンチから試合を見守っていた杉山の目にはある光景が映った。「レフトスタンドからお客さんが帰っていくのが見えていました。満員御礼っていうアナウンスもあった中で、本当に申し訳ないことをしたなって思います」。

 試合後、小久保裕紀監督は「これにへこたれずやってほしいですけどね」と右腕にメッセージを送った。「この思いを忘れることはできないと思うけど、この世界はやり返すしかないんで」。何も言わずそばに寄り添ってくれた今宮の思いもある。やられっぱなしで終わるわけにはいかない。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)