何気なく声をかけたつもりだったが、指揮官も驚いていたようだ。ソフトバンクは10日、オリックス戦(京セラドーム)に3-4で敗れた。痛恨のサヨナラ負けとなったが、見せ場を作り出したのが廣瀬隆太内野手の守備だった。試合前に小久保裕紀監督からかけられた言葉。「昨日、寝たか?」。廣瀬の答えに、その人柄が詰まっていた。
先発の東浜巨投手が2回2失点で降板し、3回から継投に入る。序盤から追いかける展開となった中で、5回2死二塁から栗原陵矢内野手の適時三塁打で同点に追いついた。その直後となる5回の守備、2番手の大山凌投手が1死一塁を迎える。ここで太田が放った痛烈な打球が、廣瀬のもとに飛んだ。半身になって捕球すると、二塁に転送。併殺打を完成させて、ピンチを広げなかった。
9日のオリックス戦。3回2死二塁で森の打球が一、二塁間に。廣瀬はグラブを伸ばして捕球するも、一塁に悪送球してしまった。貴重な追加点を奪われ、まさに1球の怖さを知るプレー。どんな気持ちで、その日の夜を過ごしたのか。ルーキーとは思えない図太さだ。
「いや、何も変わらず過ごしました。切り替えのスポーツなので」
一夜が明けたこの日の試合前に、小久保監督と言葉を交わしていた。その内容についても「『昨日寝たか?』と言われて『寝られました』と答えたら『図太いな!』って言われました」と、指揮官をも驚かせていたようだ。併殺打でピンチをしのいだ大山も、すぐに廣瀬にハイタッチに行く。「同期ですし、助けられて嬉しかったです」。エラーがあった9日の試合後、宿舎の食事会場で廣瀬と顔を合わせたという大山。その様子を明かした。
「昨日終わって、ホテルでご飯のタイミングが同じだったので、少し話をしたんですけど、やっぱり反省している感じはすごくありました。でも、そんなにすごく落ち込んでいるとかではなくて、前向きと言ったらあれなんですけど。そういう雰囲気にも見えたので、本人は今日頑張って取り返そうとしていたんだと思います」
廣瀬本人も、この日の5回1死を振り返る。痛烈な打球ではあったが「捕れるなと思いました」と頷く。「あれはゲッツーを取らないといけないプレーだと思いますし、昨日ミスをして取り返せたらと思っていたので良かったです」と、試合中盤を締めるビッグプレーとなった。試合前には本多雄一内野守備走塁兼作戦コーチと、時間を費やして守備練習をしていた。一歩ずつ成長している段階の中、いい結果へと繋がったことが何より嬉しかった。
小久保監督は若鷹について「悔しさはもちろんあるんですけど、怖さになってくる」と語っていた。1つのミスを知ってしまえば、プレーする上での“恐怖心”に繋がる。廣瀬も指揮官の言葉を踏まえて「まだ(調子が)落ちたてなのでこんなこと言えますけど、本当にどうしようもなくなって、バットにも当たらなくなって、打席に入るのが怖くなったら、それは怖いですよ」と語っていた。9日の失策は、どのように捉えているのか。
「全然、まだまだじゃないですか。全然まだまだ(もっと怖いことが)あると思います」
そして「勉強になりました」と続けた。ミスをすれば反省して、反復練習して、今度は成功に繋げる。プロ野球選手としてどんどんたくましくなっていく廣瀬隆太が、どっしりとプレーする姿を見ていたい。