山川穂高を「全部真似」 リチャードが痛感した“30秒の差”…聞き続けた「明日何時に来ますか?」

ソフトバンク・リチャード(右)と山川穂高【写真:竹村岳】
ソフトバンク・リチャード(右)と山川穂高【写真:竹村岳】

山川穂高の隣で過ごした1か月…痛感させられた「準備がめちゃくちゃ早い」

 師匠と過ごした1か月は、どんな期間となったのか。間近で見たからこそ、わかったことがたくさんあった。ソフトバンクのリチャード内野手は今、2軍での調整を行なっている。4月30日に1軍昇格となり、6月3日に登録抹消されるまで、多くの時間をともにしたのが山川穂高内野手だった。「本当に4番の鏡だと思います」とうなったのは常に“一歩先の準備”をする山川の姿勢だった。「全部真似をした」という日々を、具体的に語った。

 同じ沖縄出身で、山川が西武に在籍していた時から自主トレをともにしてきた関係性。今季からFA移籍したことで、同じユニホームを着ることになった。リチャードは1軍で過ごした約1か月で、15試合に出場して打率.226、0本塁打、1打点。時には栗原陵矢内野手に代わって三塁でスタメン出場するなど、首脳陣からの期待はリチャード自身が一番感じていた。

 山川も、リチャードが今季の1軍初打席に立った時「本当に、冗談抜きで内容よかったです。絶対にいい。これができれば、みんな同じ考えなんじゃないですか?」と活躍を予感し、期待を寄せていた。ホークスの打線の中心に座り続ける男を、一番近くで見つめ続けた1か月。リチャードが学んだのは「準備の部分です」と言う。朝から夜まで、山川の“真似”をするようにして過ごしてきた。

「準備の中で、朝から球場に早めに入っていたり、球場に着いてから何をしているのか、ずっと一緒に行動させてもらっていました」

 ビジターの時チームは、宿舎をバスで出発する。山川はそれよりも早い時間に個別で球場入りしているが、そこにも同行した。「朝ご飯は別々で、山川さんには(宿舎で)マッサージを受ける時間もあったりする。一緒に行かせてもらうのは出発からで、球場に着いて、ストレッチして、試合に入るまで」。自分自身がスタメンで出場する時は「バッティング練習の班も同じだったので、そういうところも含めて全部真似をしていました」と、濃密すぎる時間だった。

 ホームの時、選手はそれぞれの方法でみずほPayPayドームにやってくる。山川はアーリーワークにも参加しているだけに、本拠地でも師匠のそばにい続けた。「『明日何時に来るんですか?』っていうのを必ず聞いて『この時間』って言った時には、僕も来るようにしていましたし、それよりも早く来たりしていました」。一瞬一瞬を、見逃さないようにした。その上で「でも、時間ぴったりに来ると……」。山川の“一流の準備”に、はじめはついていくだけで苦労したそうだ。

「あの人の準備はめちゃくちゃ早いんです。すぐにバスタオルを持ってシャワーに行って出てきたり、そっち(準備の早さ)についていけなかった。途中からは20分くらい早く球場に来て、次に何をするのかは大体わかるので。その次の準備までしておいて、やっと一緒に行動できるくらいの早さでした。本当にパッパッパッっていう感じで、そういうところもこっち(2軍に落ちてから)でも真似しています。ロッカーでも整理整頓はもっと心がけるようにして、どこに何があるのか(把握できるように)」

「『遅くない? シャワーの準備まだなの?』って言いながら山川さんはシャワーに行く。僕もそれについていくんですけど、30秒くらいは遅れるじゃないですか。その後にご飯を食べようとするんですけど、僕は急いでシャワーに行ったからランドリーをまだ出していなかったり、その間に山川さんはもう食べ終わっていました。本当に一歩先“プラス2”くらいの行動でした」

ソフトバンク・リチャード(右前)と山川穂高【写真:竹村岳】
ソフトバンク・リチャード(右前)と山川穂高【写真:竹村岳】

 山川の“先”を行けるように、リチャードも日々の中で早めの準備を意識するようになった。当然「最初は早すぎて間に合わなかったです」と振り返る。試合後に「バッティング行こう」と声をかけられても、山川はすでにバットと手袋と手に室内練習場に向かっている。言われてから準備をしていてはいけない。プロとして経験してきたことだが、山川が誰よりも体現している姿を見られたことは、リチャードの財産にもなった。

 日々の微調整こそあるものの、レギュラーとしてグラウンドに立ち続ける選手のルーティンは、ほとんど決まっている。山川で言えば試合までの準備や、試合後にバットを振ることで自らの打撃を修正する時間など、全てが大切なプロセスだ。リチャードも「打っても打たなくても、完全に(やることが)決まっていましたね」とうなったのも、チームメートとなって隣で同じ時間を過ごしたから。チームの中心を託される選手は、こうあるべきなんだと、強烈に教えられた気がした。

「本当に4番って感じでした。4番の鏡だと思います。あの人が4番にいるから周りの人も自分のプレーができて、周りの人が自分のプレーをするから、山川さんも『しっかりしよう』と思ったり。なんだか、そういうところも僕は見て勝手に感じていました。ギーさんが怪我しちゃった時も、それでも(山川さんは)変わらなかったです」

 途中からは山川のスピードにも慣れ、リチャードの準備にもより磨きがかかった。「僕が一番見させてもらったと思っています。あれくらいストイックで、本当に天才だと思います。普通の人からしたら、あれくらいの行動をしないといけないんだなって思いました」。プロ野球選手として毅然とし、徹底した準備を毎日継続する。誰よりも山川穂高をリスペクトするからこそ、追いつき、いつかは超えていきたい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)