ライブBPで対戦した育成・山本恵大「なかなか経験できることじゃない」
貴重な機会を思う存分に楽しんだ。大ベテランの眼力の前では、自分の強みも課題も、一瞬で見抜かれてしまった。ソフトバンクの和田毅投手が28日、ファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」でライブBPに登板した。若鷹たちと対戦した中で「いいスイングしています」と絶賛したのが、育成3年目の山本恵大外野手だ。快音を響かせた後、和田からの言葉が衝撃的だった。「この辺が打てないでしょ?」。
和田はこの日、ウエスタン・リーグのオリックス戦(タマスタ筑後)に先発する予定だったが、あいにくの雨予報。試合が始まる午後6時から強くなる予報だっただけに「雨でどうなるかもわからなかったので、しっかりとこっち(室内)で投げさせてもらいました。雨も強くなる予報でしたし」と、室内での調整に切り替えた。3イニングを想定しながら、対戦したのが山本、リチャード内野手、大泉周也外野手だ。
リチャード、山本、大泉の順番で回していく内容だった。山本は1打席目でいきなり遊撃の頭を越えていくような打球を放った。その後も、初球から積極的にバットを振り、和田のすぐ横をライナー性の打球で抜いていくなど、2本の安打性を記録した。和田自身も「いいスイングしています」と振り返った内容。どこにポテンシャルを感じたのか。
「センターにライナーを打ったのもあの子ですよね? 打球も速かったですし、もうちょっとで(自分に)当たりそうでした。当然まだまだ荒い部分はあると思いますけど、自分に限らずいい投手と対戦していけば、対応できるようになると思います。廣瀨(隆太内野手)が、最初は(1軍で)対応に四苦八苦していましたけど、今はレギュラーを取ろうとする勢いで結果を残している。そういう若い子に出てきてほしいなと思います」
この日に限らず、シーズン中も公式戦で他球団の若手とは何度も対戦する。将来性を感じる基準を問われると「雰囲気とか、あとは悔しがり方ですね」と答えた。打ち取られた後に滲み出るようなオーラ。勝負の世界では失ってはいけない闘争心だ。「“ただ単なる1打席にしていない選手”は、感じるところがある。うちの選手もそうですし、勝負は勝負ですから。2軍とはいえ、そこで結果を残さないことには上がっていけない。『そのうち出番が来るだろう』っていうのはあってはならないというか、そういう選手は伸びていかないと僕は思います」と話していた。
大ベテランの和田との対戦を山本は「なかなか経験できることではないですし、楽しみで打席に立っていました」と、興奮した表情で振り返る。ライブBPを終えると、和田は対戦した3人と少し言葉を交わしていた。フィードバックしていたようで、山本も「自分が打席に立っていて『ここが苦手』『ここが得意』というのを言ってもらって、左投手の時はその通りだったので」と内容を明かす。たった5打席目ではあったものの、自分の強みも弱点も見抜かれていた。
「『この辺を打っていて、この辺が打てないでしょ?』っていう話でした。そういう外角の待ち方だったり『追い込まれてからは手だけになるところもあると思うから、思い切って振っていけたら』と(言われました)。5打席立ったんですけど、最後は苦手なところばかりを攻められて、やっぱり1軍の投手はすごいなと思いました」
山本は1999年8月生まれで、東京都出身。国士舘高、明星大を経て2021年育成ドラフト9位でホークスに入団した。度重なる怪我にも悩まされながら、今季はウエスタン・リーグで12試合に出場して打率.156ながらも初本塁打を記録。4日の中日戦(みずほPayPayドーム)で左翼テラスに叩き込んだ。「最近調子も悪くて、バッティングで悩むことも多かった。和田さんと対戦できると聞いて、割り切ってというか、なかなか経験できることじゃない。そうしたらいい感じに打てたので、これを機にしていきたいです」と今後を見据えていた。
昨年の契約更改交渉の場で、和田は育成選手に対して「ユニホームを変えてもいい」と苦言を呈した。自分にとっても、育成選手と直接的な交流を持つのは貴重な機会で「初球からしっかり振れるのは準備できている証拠。いろんな対応ができてくれば、いいバッターになれると感じられる若い子たちでした」と頷く。その上で、自主トレをともにしたリチャードだけは「こんなところでシート(打撃)をやっているバッターではないと思う。ここじゃなくて1軍で出ていないといけないバッターなので、発奮してほしい」と奮起を促していた。
山本を含めた若手のポテンシャルを認めながらも、明確な弱点も和田なりに指摘した。「ダテに20年、この世界でやっていませんから」。双方にとって、貴重な機会となったはず。和田から放った“2安打”を自信に変えて、支配下への道を一歩ずつ進んでいく。
(竹村岳 / Gaku Takemura)