笹川吉康と明石コーチの深い絆 愛弟子の長文LINEに“一言返事”…込められた熱い思いとは

ソフトバンク・明石健志コーチ【写真:竹村岳】
ソフトバンク・明石健志コーチ【写真:竹村岳】

愛弟子の確かな成長「ガソリン満タンで帰ってきている」

 たくましくなって帰ってきた教え子の姿に思わず目尻が下がった。1軍の舞台を経験した笹川吉康外野手は、再び2軍で調整を続けている。合流した18日以降の成績は15打数8安打1本塁打。「一気に成長してきたかなという感じです」。二人三脚で技術を高めてきた明石健志2軍打撃コーチは、確かな成長を感じた様子だった。その背景には2人だけの信頼関係があった。

 笹川は横浜商高から2020年ドラフト2位で入団。6月11日に1軍初昇格を果たすと、待望の瞬間は「8番・右翼」でスタメン出場した15日の第2打席に訪れた。高めの直球を振り抜くと、打球はライトスタンド中段に突き刺さる、嬉しいプロ初本塁打となった。「夢のような場所だった」。みずほPayPayドームで躍動した時間を振り返り、目を輝かせた。

 200件ほどのLINEが届いたという初アーチ直後。そんな中でも笹川が真っ先に喜びを報告した相手は明石コーチだった。感謝の気持ちを込めた長文のメッセージを送ったが、返事はまさかの一言だった。短文の理由を明石コーチに尋ねると、そこには“師弟関係”ならではの一面があった。

「結構長文で送ったんですけど。『お疲れ。おめでとう』みたいな感じで。あんまり表現が得意な方じゃないので、明石コーチは」。こう口にしたのは笹川だ。少し悲しかったかと聞くと、「明石コーチらしいなって思いました」と、短文の意図を汲み取っていると言わんばかりに、ニヤリとしてみせた。

「僕が1軍に行く時も、(明石コーチが)関川コーディネーターとガッツポーズしていたっていう話も聞いていたので」。明石コーチが喜んでいたことを、実は笹川は知っていた。だからこそ、短文でも思いや意図は十分に伝わった。

「ホームランの時は僕から送ったんですよ。『ホームランえぐっ!』って。それ(短文だったの)は初ヒットの時です」。訂正を加えつつ、端的な返信の理由を明石コーチは続けた。「嬉しいですけど、まだもっともっと打てるので。まぁおめでとうぐらいです(笑)」。愛弟子の初ヒットが嬉しくないわけがない。それでも1本で満足しないように、という親心と期待があった。

 初本塁打の瞬間はテレビで見ていた。「まず振れ! と思いました。真っすぐが来たら、ファールか、前に飛ぶかな? と思っていたら飛んでいましたね(笑)。打った瞬間でしたね」。予想とは裏腹に、真っすぐを強振した打球はライトスタンドに向かって一直線。ドームで躍動する姿に、確かな成長とたくましさが感じられた。

 昇格を喜んだのは、2人だけの濃密な時間があったから。「打てなかったけど、今の良かったよねとか、(バットが)そのまま出てきたねとか。捉えられる幅っていうんですかね、それを出すことしか考えていなかったです」。スイング中に左肩がピッチャー方向に早く出すぎる癖を直すため、試合後も2人で状態を確認。何度も試行錯誤を繰り返し、改善を行ってきた。

 笹川の姿勢は明石コーチ自身の若い頃と重なったようだ。「あのくらいの頃って、ギラついていないと。これから勝負をかけようっていう人間が、悟りを開いたぐらいに温厚になってもですね。1球、1打席に対して、『クソー!』ってやっていても、悪いとは思わない。僕もあのぐらいの若さの時はギラギラしていました」。貪欲にバットを振り込む姿を見ると、自然と思い入れも強くなる。

ソフトバンク・笹川吉康【写真:竹村岳】
ソフトバンク・笹川吉康【写真:竹村岳】

 そんな笹川が一回り大きくなって2軍に戻ってきた。「取り組むことは変わっていないですけど、経験したことは中毒みたいなもの。あそこに行きたい気持ちがより強くなった」。ドームで浴びた歓声と、これまでにはなかった注目度。短期間で感じたことはあまりにも大きく、再び1軍を目指すための原動力になった。

 笹川の様子を「ガソリン満タンで帰ってきている」と明石コーチは表現する。明確になった目標と課題。「刺激というか、そういうのはたくさんもらって帰ってきてるので、それだけで十分です」。二人三脚で1軍定着を目指していく。

(飯田航平 / Kohei Iida)