胸に刻まれている高谷裕亮コーチの言葉…常に大切だと語る「最善の準備」
首脳陣から“謝罪”されたことがある。気持ちに応えるべく、日々最善の準備を重ねているつもりだ。ソフトバンクは23日、ロッテ戦(みずほPayPayドーム)を6-6で引き分けた。2点リードで迎えた9回にはクローザーのロベルト・オスナ投手がマウンドに上がった。2死一、二塁からネフタリ・ソト内野手に逆転3ランを浴びた。試合後には「残念で仕方がない」と振り返った。悔しさを味わっても、突き動かすのは首脳陣からの熱い言葉だ。
2点リードの9回からマウンドへ。1死から岡に中前打を浴びると、続く藤岡にも四球を与えてしまい、2人の走者をためた。2死までこぎつけたが、ソトには外角球を右翼テラスの最前列に運ばれて、まさかの逆転。「ソト選手は対戦する度にエクセレントなバッターだと思います。悪い球ではなかったですけど、相手がうまく対応してホームランになってしまった。そこは残念です」。打線がその裏に追いつき、結果的に引き分けに終わったものの、9回で試合を終わらせることはできなかった。
5月31日の本拠地・広島戦から、7試合連続でセーブを記録していた。この日は2点差を逆転されたのだから、チームにとってもオスナにとっても痛すぎる結果となった。自身の調子は、確実に上昇気流を描き始めていたところ。常々、首脳陣とのコミュニケーションについて「彼らのためにも、こんなに良くしてもらっているからこそ結果で応えたいです」と語るオスナにとって、忘れられない印象的な言葉がある。
「俺が悪い」
そう声をかけたのは、高谷裕亮バッテリーコーチだった。オスナは今季2敗を喫しており、その1敗が5月1日の本拠地・楽天戦だった。同点の9回に登板したが、1死二塁から小深田に勝ち越しの適時打を許し、チームは敗れた。試合後にバッテリーを組んだ海野隆司捕手のもとに「自分から話をしに行きました」と明かす。その時の会話が、今でもオスナを突き動かしている。責任を真っすぐに受け止める首脳陣を、男にしたいという熱い思いだ。
「海野のところに行って『あれは自分が悪かった』と話していると、高谷さんが来たんです。その時に高谷さんが言ったのは『彼は悪くない、俺が悪い。海野のせいにしないでほしい』と」
高谷コーチは「オスナも甘いところに投げてしまった反省があったんですけど、甘いところに投げない投手っていないんです」と胸中を明かす。打たれたという結果だけではなく、捕手陣が最善の準備をしたのかどうか。そこが大切だといい、楽天戦は「こちらの準備が足りなかったら申し訳ないし、準備不足だと捉えられたらそれは僕の責任ですから」と、真っすぐ受け止めた。グラウンドでプレーするのは、選手たち。結果に繋がらなかったプロセスは、首脳陣に責任があるとキッパリ言った。
この日のロッテ戦に当てはめると、どうだろうか。試合後は遠征への荷出しもあったことで慌ただしく、バッテリーとしての振り返りはまだできていなかった。高谷コーチも「その話ができていないんです」と言いつつも「僕の中で思っていることはあります」と悔しそうな表情で話す。「あのホームランがクローズアップされますけど、その前がどうだったとか、色々あるじゃないですか。反省はしますけど、言い出したらキリはない。岡に3ボール1ストライクにしなかったら……とかね」と続ける。勝負の世界に“たられば”は禁物だが、防げる場面はあったようだった。
オスナにとっても「2人目のバッター、岡のあたりから自分が持っていたプランを実行できなかった。あそこあたりから危ないかなと……。こういうことをしたかったと具体的には言えないんですけど、四球を出してしまう前のバッターですね」と、反省点は多かった。日頃から登板前には相手バッターのデータは徹底的に頭に入れる。捕手だけでなく、高谷コーチも含めた首脳陣にも意見を聞く。コミュニケーションを欠かすことなく、最善の準備をしたからこそ、結果に繋がらなかったことだけを悔やんだ。
日曜日の一戦を終えて、24日は移動日。貴重な週末だが高谷コーチは「休んでいる暇はないです。オリックス戦から重要な1週間ですから」と言い切る。オスナも「自分の投球内容に満足はできていないです。高谷さんはお風呂場で会った時にアドバイスをくれたこともあるし、今日の結果もそうですけど、コミュニケーションが大切だとつくづく思います」と前を向いた。信頼関係を持って、勝利へと突き進むチームスポーツ。首脳陣の思いに、今度は白星で応えたい。
(竹村岳 / Gaku Takemura)