選手だけではなく人として大切なこと「佑京は絶対に気づくタイプ」
選手会長という肩書きを託したから、自分が誰よりも見守っていないといけない。思い悩む後輩は「しんどいと思う」。ソフトバンクの周東佑京内野手は今季、選手会長に就任した。49試合に出場して打率.263、1本塁打、11打点。19盗塁はリーグトップだが、スタメンを外れる期間もあった。自分の立ち振る舞いを「非常に悪かった」と猛省する周東を、今宮健太内野手はどう見守っているのか。前任の選手会長は、誰よりも言動に目を光らせていた。「変わってきたな」――。
14日の阪神戦(みずほPayPayドーム)だった。5回2死二塁から廣瀨隆太内野手のプロ初ホームランとなる1号2ランで先制する。続く周東は、2球目にセーフティバントを仕掛けた。惜しくもアウトになったが、一塁にはヘッドスライディング。昨年の10月7日の楽天戦(楽天モバイルパーク)以来「人生2回目」の“一塁ヘッスラ”に「ベースに突くのが嫌だったので『ヘッスラしよう』って走りながら思いました。それだけですよ」と語る。今の自分ができる全力で、Hのランプを灯しに行った。
3安打を記録した13日のヤクルト戦(みずほPayPayドーム)では、久々にヒーローインタビューに選ばれた。打撃の復調を確かに感じながらも、6月上旬はスタメンからも外れた。苦しかった期間を振り返り「立ち振る舞いは非常に悪かったと思う」と反省する。「もう1回、自分が野球選手としてどうあるべきか。打撃のこともですけど、そういうことの方がすごく考えたのかなと思います」と成績だけでなく、姿勢でも試されたような期間だった。
自分自身で「非常に悪かった」と猛省した日々。選手会長に就任したことで、見られる立場になった。前任の今宮は「しんどいと思います」と、今の周東に抱く印象を語り出す。
「あいつ自身がそれを感じるだけでいいんじゃないですか? うまいこと野球人生をやっていける人はなかなかいないと思います。挫折じゃないですけど、そういう悔しい思いをして、先に進んでいく人たちの方が多い気がします。試合に出られなかったことも、本人が一番悔しいでしょうし。僕も何回も経験しました。悔しさがありながら、佑京自身も必ずやっていることもありますし。それを継続して、やっていくことかなと思います」
今宮は2022年から2年間、選手会長を務めた。選手の先頭に立った日々を「自分がある程度発信していくことになると、そういう姿っていうのは誰かしらに見られていると思う」と振り返る。「説得力って正直、何もしていない人に言われても半減するというか、あんまりない。そういうところは意識しました」。言葉でも伝えなければならない立場になったなら、ベクトルは自然と、自分の立ち振る舞いに向いていった。
春季キャンプ中に周東は「あんまりヘラヘラしないことです。あまり映りがよくない時もあるので、そういうところは考えながらやっていかないと」と心構えを語っていた。シーズンが始まり、嬉しさも苦しさも味わっている6月。今宮は「全然、悔しい気持ちは表に出していいと思います」と言う。その姿を見た人が、どう思うのか。それが頭に入っていれば、取る行動は必ず変わる。
「試合中や、試合が終わってからを考えると、何もやっていない姿を見せられても……。人間ですから、そういう(説得力がないように)ふうになってくると思います。だから僕自身もすごく意識しています。後輩にどう思われているのかっていうのもあるかもしれないですけど。『いい人でいたい』とは思っていないですし。自分がある程度やっていれば、もちろん後輩に発した時に『この人に言われて』って納得してくれるだろうなっていうのは必ずあるので。そこは意識しています」
だから日々、プロとして同じ準備をするしかない。準備して失敗すれば、練習するしかない。今宮も「一緒の準備をして、やれることをしっかりやって、ゲームに入っていくこと。結果が出ないことを“仕方ない”で終わらせたくはないですけど、もちろん成功も失敗もあって、打てないこともある」と代弁した。「そういうことを考えると、佑京も同じことを継続してやっています」と言い切る。バトンを渡した責任をしっかりと背負い、周東の行動を誰よりも見ているからだ。
「いろんなところ、選手会長っていうところも踏まえて成長できたらと思って、佑京にバトンを渡している。しんどいと思うんですけど、そういうところができればもっと人間として成長できる。プレーヤーとしても素晴らしいですけど、それ以外のところ。この先、野球なんて長くても40歳。40歳までできるのも一握りなので。そう考えれば、その先の人生のこともあるし。そういうところに気がついてくれたら。まだまだ若いので、じきに気がつくと思いますよ。気づかない人は一生気づかないので」
そしてキッパリと「佑京は絶対に気づくタイプだと思います」と続けた。周東が苦しみ、立ち振る舞いを反省した期間。今宮から何かを言ったことはないという。「彼は彼なりの思いがあるでしょうし、悔しい思いは表に出すタイプ。投げやりになってやらなくなったりした部分も見てきた」。選手、そして人としての立ち振る舞い。「それが結果に繋がるかと言われたら正直わからないですけど、そういうところが変わったらもっとできるし、見ている人は見ています」。自分も通った道だから、プレー以外が大切なことも知っている。学んできた“良い伝統”を、今度は周東に受け継がせていきたい。
「どうかな? と思いながら見ていますけど、変わってきたなとすごく思いますよ。じきに、佑京とかクリ(栗原陵矢内野手)がどんどんチームを引っ張ってくれたら。そうなっていかないといけないですし、なると思います。晃(中村晃外野手)さんも今が34歳で、ギータ(柳田悠岐外野手)さんも36歳になるでしょう。小久保さんもおっしゃっていますけど、良き伝統っていうのは引き継いでいきたいです。それは先輩次第だと思うし、僕らも上を見て育ってきたので」
期待はひしひしと感じ取っている。周東も「監督もミーティングでおっしゃっていた『投げやりにならない』っていうのは自分に言われているんだろうなって感じました」と、真っすぐに受け止めた。思い悩んでいても、苦しんでいる姿も、今宮は必ず見ている。周東なら必ず乗り越えられると、信じているから。
(竹村岳 / Gaku Takemura)2024.06.15