大黒柱が姿を消して、10日間が経った。打線を背負う主砲として、何を思うのか。ソフトバンクの柳田悠岐外野手が6月1日に登録抹消された。5月31日の広島戦(みずほPayPayドーム)で右足を痛め、「右半腱様筋損傷」と診断された。全治はおよそ4か月。残りのシーズンのほとんどを柳田抜きで戦うことになった。「え? 4か月? え? そんなことある?」と驚きを隠せなかったのが、山川穂高内野手だった。
柳田は今季48試合に出場して打率.293、4本塁打、35打点。全試合で3番を託され、同じく4番を務める山川の前を打ってきた。「僕からしたら、ギータさんが前にいることなんてとんでもないことですよ」と、柳田が前にいる効果を感じ取っていた。山川も56試合に出場して打率.237、12本塁打、46打点。本塁打と打点のリーグ2冠にいるのは、山川の技術はもちろん、厚みある打線の中心にいる影響も大きいだろう。
FA権を行使して、ホークスに入団した1年目。柳田とは西武時代から面識があったものの、チームメートになっても印象はほとんど変わらないという。“柳田がいる”という安心感を「それはありますね」と認める。西武時代からの経験も含めて、山川はホークスを「ギーさんのチーム」だと表現する。
「野手の最年長ですけど、ホークスの今のカラーというか。チームによって考え方とかがありますけど、ギーさんのチームだと思いますし。もちろん1人ではないと思いますけど、作り上げてきたその中心にいた人。外側から見たホークスのイメージと(実際にチームメートになって)一致しましたので」
2014年にプロ入りし、3度の本塁打王を獲得した。2018年からパ・リーグ連覇するなど、最大のライバルとしてホークスと戦ってきた山川だから理解できることがある。「その前には松田さんがいましたよね。松田さんとギータさん、内川さんもいますし、そういうメンバーが野球しているのを見て、すごく強いなと敵ながら思っていました」とリスペクトする。怪我をした瞬間すら一塁まで全力疾走した姿勢や、飾らないところ、リーダーシップなど柳田の全てを自分なりに見てきた。だから「ギーさんのチーム」だ。
柳田の離脱以降、3番を打っているのは栗原陵矢内野手。打線の組み方も変われば山川の意識も変わりそうだが、本人はきっぱり否定する。自分がコントロールできないことには、目を向けない。山川らしい考えが滲んでいた。
「それは、僕たちが考えることではない。監督も言っているところというか、それは動かす人たち、監督コーチの采配。『この人がいないからこう』っていう。我々は、自分に与えられたところで必死にやるだけなので。もちろんチャンスで打ったりとかありますけど、それも含めて技術。打ちたいと思ったり、誰かがいないから俺がカバーすると思っても、思うだけではそうならない。自分も毎日試行錯誤しながらやっている中で、メンテナンスも含めて毎日できるようにすることが、そっちの方が大事」
柳田がいないから、より一層「打ちたい」と思っても、できることは何も変わらない。実力以上のものは出せないから、それが「技術」だと山川は言う。「それしか方法はない。ギーさんに毎日電話するわけにはいかないじゃないですか(笑)。いるメンバーで賑やかにというか、勝てばワイワイできますし。勝って毎日ワイワイできるようにやっていくだけかなと思います」と足元だけを見つめていた。
41本塁打でキングとなった2022年、山川は4月に右足の肉離れを経験している。柳田の診断と全治を伝え聞くと「早く治るでしょう。お医者さんの診断は、ちょっと大きめにいう気がしますし、わからないです」と戸惑いながら話す。2年前の自分自身と重ね「14試合くらいの欠場で戻りました。テーピングガッチガチでしたけど、走らなくていいと言われたので。今は色々と治療の技術も発達していますしね。4か月ですか? それはびっくりです……」と話すしかなかった。柳田がいない今、もう1度、チーム全体が一丸になるしかない。
西武時代は中村剛也や栗山巧の背中を見てきた、と語っていた。自分が見てきたチームリーダーの姿は当然、柳田にも重なる。「僕も引っ張っていけるように。引っ張っていくっていうのは言葉とかそういうのではなくて、自分の準備をして、自分の結果を出していければ、チームを引っ張っていけると思うので、順序は間違えないようにしたいです」。地に足をつけて、主砲としてホークスを勝たせ続けていく。