ソフトバンクの小久保裕紀監督が、鷹フルの単独インタビューに応じた。今回のテーマは「読書」。指揮官がこれほどまでに本を読むルーツは、幼少期にあった。1軍で勝敗の責任を背負い、重圧と戦う日々。一方で、グラウンド外ではどんな過ごし方をしているのか? 小久保監督の素顔に焦点を当て、どのように野球に生かしているのかを教えてもらった。また、柳田悠岐外野手との現役時代の秘話も明かした。
交流戦も中盤に差し掛かり、6日を終えた時点で35勝16敗2分け。5月31日に柳田が負傷離脱したものの、なんとか沈むことなく首位をキープしている。大黒柱がいなくなり「そういう時にチームの底力の見せどころですから」と話していた小久保監督にとっても、力を試されるような時期が訪れた。重圧と戦う日々。一方で、野球とは離れたグラウンド以外の時間を、どのように過ごしているのか。「ほとんどが勉強の時間です」という中身に、指揮官の個性が表れている。
「大体、今年のルーティンは試合をテレビの映像で見直すこと。家では食事をしながらその日の試合をボーッと振り返っていますね。ナイターデーの時はキツくて、なかなか全部はキツいんですけど、基本ナイターナイターの時は見直しています。あとは基本的に1日2食しか食べないので、ナイターの時の1食目は(午後)4時やし。それまでは、ビジターやとほとんど部屋で本を読んでいます。ほとんどが勉強の時間です」
本を読め。若鷹たちに、何度だって伝えてきた言葉だ。「僕は今は北方謙三先生の『岳飛伝』を読んでいます、もうすぐ終わりますけど。水滸伝から、楊令伝、僕は水滸伝は2周読んでいるので」と、自身のマイブームを明かす。生活習慣やリズムを2軍監督時代と比較しても「全く一緒です。そのままです」と言い「ヘッドコーチになった時のルーティンがそのままって言った方が正しいかな。ヘッドの時にやっていたことがそのまま、2軍監督でもやっていて、今でもやっています」と、自分だけの時間を過ごしている。
人生の多くを占める野球と、本。のめり込むようになった“ルーツ”を指揮官は「学生の時もそうやし、親がけっこう読んでいたので、家に本がいっぱいありました。本棚がけっこう。どっちかというと歴史の本が好きでしたけど。親の影響、母親の影響が強いと思います。本棚がある家やったのが大きかったと思います」と、自然と背中を追うようになった。学生時代から、プロの世界に飛び込んでも、何も変わることなく本は自分の生活の一部だった。うまくなりたい、プロとして成功したいと思えば思うほど、読む本も増えていった。
「自分の状態が悪い時、うまくいかない時に何かにすがりたいって人がいると思うけど、僕の場合はそれがたまたま本やったってだけじゃないですか。何かヒントを得て、行動に移せるヒントがないかなっていう。だから目のトレーニングや、栄養学、ウエートトレーニングだったり、右脳の発達、直感力とかも含めて。自分が苦しんだ時に、最初にそうなったんでしょうね」
勝手なイメージで恐縮だが、リーダー論や、そういった類の本を読んでいるイメージがある。指揮官も「それは今までもいっぱい読んだよ」と認めつつ「当然売れている本は全部チェックするし。小説も読みます。集中力がない時は小説です。頭に入ってこない時は、だいたい小説です。北方謙三先生の小説。まだいっぱいあるので、先が読みたくて仕方ないです」と胸を躍らせている。ジャンルを問うことなく、どんな本も手に取る。必ず野球に生きてくることを知っているから、先入観はためらいなく捨てられる。
「全然関係ない本、野球と全く関係ないジャンルを勉強する時もあるし。その時は別に野球に置き換えては見ていないので、動画も勉強の題材も。その時は野球は飛んでいます。何がどこで、それが繋がってくるのかわからない。でもなんかね、繋がるんですよ。野球じゃなくても」
現役時代から、本を読む大切さは後輩たちに伝えてきた。小久保監督と言えば、漫画を読んでいた柳田を注意したという逸話が有名な語り草。真実を聞くと「注意しましたよ。現役の時でしょ?」と認める。決して、叱りつけたわけではない。自分なりの思いも明かした。
「そうやって僕らもコーチに教わったから。だからと言って漫画がダメって言っているわけではない。それが水島(新司)先生にも失礼だし。じゃなくて『それは部屋で読めるんじゃない?』っていう話をした。僕はコーチにそう指導、教育されたので、そう言っただけ。あとどうするかは、本人の価値観ですから」
プロ野球選手にとって、移動の時間は必ずつきまとうもの。2軍監督時代には「同じ移動をするのも、疲れているなら寝ればいいですし、趣味の音楽を聴いてリフレッシュするという目的があればいいですよ。でも、ただ“流行っている曲を聴く”のでは時間がもったいないですよね。だから『本を読め』という話はけっこうしてきました」と話したこともあった。たった1回、自分だけの野球人生に悔いが残らないことを、小久保監督は祈っている。