2番近藤は「しなくてよかった」 小久保監督が語る“打順”…全試合で5番に据える明確な理由

取材に応じたソフトバンク・小久保裕紀監督【写真:飯田航平】
取材に応じたソフトバンク・小久保裕紀監督【写真:飯田航平】

山川穂高に生まれた“変化”「最近、見えます」…近藤が後ろにいる“相乗効果”

 小久保裕紀監督が鷹フルの単独インタビューに応じた。テーマは「打順」について。チーム打率.261、チーム本塁打31など、リーグトップの成績を残している打撃陣。44試合を消化した指揮官は、近藤健介外野手を2番に据えることを「しなくてよかった」と言う。生まれているのは、山川穂高内野手の明確な“変化”だ。「コーチ陣でもそこをイジろうと提案する人はいない」という打順決定における舞台裏も独占激白した。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 44試合を終えて29勝13敗2分け。24日からのロッテ3連戦(ZOZOマリン)で今季初の同一カード3連敗を喫したものの、勝率.690と圧倒的な強さを見せている。小久保監督は「それは中心、レギュラーで考えている選手、ローテーションで回ってもらっている投手の離脱がないから、そうなっているだけです。そうなっていなければ試行錯誤は必要だと思いますけど」と主力選手の活躍を要因に挙げる。

 近藤はここまで44試合に出場してリーグトップの打率.342。6本塁打24打点とレギュラーとして十分すぎる働きを見せている。託されている打順は、全試合で5番。同じくリーグトップの出塁率.441で、2番と5番ではシーズンを通せば数十打席の差が出てくる。好打者をより前に置くという近年のトレンドがある中で、小久保監督は「2番近藤は今年では(選択肢の1つ)……とは思っていたけど、逆にそれをしなくてよかったと思う」とキッパリ言い切る。その理由を明かした。

「山川の打席での対応がものすごく変わりました。俺もそうやったけど、3番井口、4番俺、5番松中、6番城島。終盤、俺のゲッツーだけは絶対にあかんと思ったら当然、長打を打ちに行くし、小細工もしない。もう内野フライ、外野フライ、三振OKっていうバッティングで、繋ごうと思っていなかった。それは最近、見えます。山川の打席を見てたら」

 象徴的な試合が、5月18日の西武戦(みずほPayPayドーム)。1点を追いかける8回、先頭の柳田悠岐外野手が出塁した。4番の山川が打席に入ると、3ボールとなる。そこからフルカウントとなり、結果的に7球目の変化球に空振り三振に終わった。続く近藤が初球を捉えて逆転2ラン。現役時代に通算413本塁打を放った小久保監督は、山川の胸中を代弁する。

「だから中途半端に当てに行って内野ゴロを打ちに行くくらいなら、ワンチャン、近藤に頼むっていう。これは後ろのバッターが近藤だからそういう姿になっている。後ろにそうじゃないバッターを置いた時には、自分が決めに行かないといけないので、もっと強引になります」

西武戦で本塁打を放ったソフトバンク・近藤健介【写真:荒川祐史】
西武戦で本塁打を放ったソフトバンク・近藤健介【写真:荒川祐史】

 近藤が後ろに控える状況で迎えた、試合終盤のチャンス。当然、最悪の結果はゲッツーだ。指揮官の現役時代、自分の後ろを打っていたのは“3冠王”、松中信彦氏。「信彦で絶対に勝負するから、僕が歩かされることがない。根本に『勝負だ』っていう環境があるのはものすごくバッターにとってプラスです。ボール球からだとか、(相手バッテリーが)勝負に来ているのかわからないのにこっちが張り切りすぎてボール球に手を出すっていうのが一番、後から映像を見たら後悔するんですけど」。近藤が後ろにいるから、山川も思い切って自分のバッティングを変えることができる。

 さらに左打者の柳田&近藤で、山川を挟むことにも意味がある。小久保監督は2004年から巨人に在籍し、3年間で94本塁打を放った。「由伸(高橋)が後ろにおって、タフィー(ローズ)が3番。左に僕が挟まれている時があったんです。その時は左投手が来ても右に代わらない、その投手のまま来るなっていうのもありましたね」。クリーンアップを“ジグザグ”にすることで、相手ベンチもワンポイントのリリーフを投入しにくいという相乗効果を語る。「要は後ろに勝負してくれるバッターがいると、中心選手は生きますよね」。まさにクリーンアップの3人こそ、首位を走るチームの原動力だ。

「だから2番柳田、3番山川、4番近藤でもいいと思うんです。今宮の出塁率が落ちてきていて、そうなることもあるかもしれない。でも、バタバタ動く時期ではないですよね。僕もそうですけど、コーチ陣でも誰1人、そこをイジろうって提案する人はいないです」

ソフトバンク・小久保裕紀監督(左)と奈良原浩ヘッドコーチ【写真:竹村岳】
ソフトバンク・小久保裕紀監督(左)と奈良原浩ヘッドコーチ【写真:竹村岳】

 オープン戦期間中「本番」と位置付けていた3月19日の阪神戦までは、コーチ陣がスタメンを考えていた。シーズンが始まった今も「ほとんどコーチが提案します」と言う。チームのトップである自分が、コーチを“1個飛ばし”にしないことを信条としている指揮官。「選手の状態を一番近くで把握しているのはコーチなので、そこは信用しています」。最終決定はもちろん小久保監督だが、コーチたちの考えを信じて、スタメンを決めている。

 毎試合、プレーボール直前に交換するメンバー表。「僕が考えるのは、最初は4番から(スタメンを)考えていたけど、今はそうでもないかな。(今は)4番をイジる必要がないので。オーダー表というか、野球観としてどこを最初に固めますかって言われたら4番でしょうね」という日々だ。大きな仕事の1つである、スタメンの決定。そこにも、小久保監督の信念がにじみ出ている。

「2番最強説とか、昔は3番最強説とかありましたけど、僕は王さんの下でやった時期が長いので、やっぱり4番にはこだわりがある。ただ王イズムの継承の中で話をしておくと、山川を最後まで守らせようっていう考えはもう少しなくしていますね。打席が回ってきそうな時は代えないですけど。僕らの時は中心選手は最後まで守り切るのが仕事だと教わっていたので、そういうふうにしましたけど。今はそこはあんまりこだわりはないです。コンディション優先です」

 信念は貫いて、時には柔軟な考えで戦い方を変える。誰よりも選手を信じる小久保監督。28日から始まる交流戦では、どんな戦いを見せてくれるだろうか。

(竹村岳 / Gaku Takemura)