単独インタビュー第4弾…テーマは投手運用における「日米の違い」
鷹フルは倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)を単独インタビューしました。第4回のテーマは「日米の違い」について。2022年から2年間、米国で指導者として“武者修行”。過去の自分を振り返ると「やらせすぎ」と表現します。米国で得たものが今、投手の運用に確実に生きているようです。リーグ屈指の投手成績を残している要因を、語ってくれました。
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36試合を終えて、チームは24勝10敗2分け。チーム防御率2.05はリーグトップで、85失点はリーグ最少と、投手陣が激変した姿を見せている。倉野コーチも「本当に期待通り、期待以上というか、よくやってくれています」と、感謝と手応えを口にする。遠征先では毎朝必ずシャワーを浴びるといい「シャワーの音っていいんですよ。そこでパッと閃くことがある」と、日常のどんな瞬間にも投手運用のヒントは転がっている。
2022年から2年間、米国で指導者としての経験を積んだ。英語もまともに話せなかったが、勇気を持って海を渡った。自分の価値観は、大きく覆されることになった。3年ぶりに復帰したホークスで、投手陣が見せている成長。全てを米国から取り入れて、真似しようと思っているわけではない。ただ、倉野コーチなりのモノサシで見ても、米国の方が優れている点が数多くあった。「日本って、やらせすぎる部分があるんです」と切り出す。
「日本って、やらせすぎる部分がある。それは練習量だけじゃなくて、精神的にも張り詰めた空気を作りすぎたところがあった。向こう(米国)は練習って、全てがウオーミングアップなんです、そういう感じなんですよ。投手もそんなにランニングをガンガンやるわけではない。先発がルーティンとしてやるのはあるんですけど、試合にいかに体力を残せるかなんですよね、シーズンを通して」
投手コーチが練習中から厳しい目で見ること、先輩に必要以上に気を遣うことなど、マウンド以外にも集中しないといけない場面がある。まずはそれを取り除きたかった。「集中力って、人間は1日2、3時間と言われるくらい、あまり続かない。練習の時に集中力を使わないようにというのをアメリカで目の当たりにした時に、これが1軍で結果を残すということなんだと」。言葉にすると簡単に見えるが、マウンドでパフォーマンスを発揮してもらうことにフォーカスする。不要なものを取り除くことも、倉野コーチの改革の1つだった。
「アメリカに行く前の僕だったら練習から集中してやりなさいみたいなところがあったんですね。だけど向こうを経験して、色々と腑に落ちることがたくさんあった。1軍だとその日の試合に絶対に勝たないといけないので、なるべく練習で疲弊しないように、リラックスさせる。やる時は集中してやらないと意味がないので、集中してもらいますけど、なるべく張り詰めた空気を出さないように、リラックスさせて、スイッチのオンオフをしっかりやりましょうとキャンプから言っていますね」
練習で手を抜くのではなく、選手それぞれのプロ意識を尊重して、基本的な調整は任せる。「ファームはまた別ですけどね。ファームはその日に勝つというよりは成長を考えないといけない。練習の質はかなり大事だし、その考え方は変わっていないです」と1軍だからできることもたくさんある。なるべく3連投をさせないなど、身体的な負担を減らすために心がけていることもあるが、ビリついた空気を作らずに、リラックスしてもらうこと。精神面の負担軽減も、今の投手成績に繋がっている。
「1軍に関してはいかに、精神的な負担を減らしてあげられるか。シーズンに入ったら、体の負担は誰しもある。なるべく精神的な負担を減らしてあげることをテーマにしています」
米国で学んだことは「スイッチのオンオフがものすごく上手い。そこは一番。リラックスする時と集中する時の差がものすごく激しいので、だからそこが一番勉強になりました」と振り返る。1日の中で、限られた集中力を発揮してもらうのは当然、1軍のマウンドだ。倉野コーチが指導者として経験したのは、メジャーではなくマイナーリーグ。マイナーでも選手育成のためには球数管理が徹底されているそうで「あまり同じ物差しでは見ていないですけど、日本でもここを参考にした方がいいというところはいっぱいありました」と、今の指導にも大きく生きている経験だ。
「僕もメジャーリーグを経験したわけではない。トップではなく3Aから下だったので、経験できたのは。マイナーの選手もそうですけど、アメリカと日本の一番の違いは、アメリカはダメだったら、取っ替え引っ替えでした。日本はどうしても救って行かないといけないですけど、アメリカはどちらかというとザルに入れて振り落として残った人だけ、みたいな感覚には見えましたね。日本とアメリカはシステムが違いすぎて、同じにはできないなとは実感しました」
中継ぎ投手は、遠征先でもバスがホテルを出発する時間は野手よりも遅い。連投すればなるべく事前に「投げない」と伝えるなど、工夫を凝らしてコンディションを管理している。まだまだ先の長いシーズンだが、一丸となっている投手陣に、隙はなさそうだ。
(竹村岳 / Gaku Takemura)