2試合連続のベンチスタートに小久保監督は「ちょっと言えないことがある」
試合に出られない悔しさは胸に秘めて、毅然とした姿でチームを応援していた。ソフトバンクは7日、日本ハム戦(みずほPayPayドーム)に2-1でサヨナラ勝利した。延長12回、無死満塁から試合を決めたのは代打で登場した周東佑京内野手。最後の最後で仕事を果たし、歓喜の輪の中心となった。「出たい気持ちもあった」と胸中を語る中で、周東が挙げたのは、中村晃外野手の名前だった。
同点のまま、試合は延長12回に突入した。先頭の近藤健介外野手が二塁打で出塁。代打の野村勇内野手が申告敬遠で歩かされて、リチャード内野手が中前打で無死満塁とした。「三振はいいとして、ホームゲッツーが最悪なので、外野フライを打ちにいこうと思っていました」。8回の前後から、代打での出場の可能性を伝えられた。「準備はしていました」と、チームを勝たせるためだけに打席に向かった。
2試合連続のベンチスタートとなり、小久保裕紀監督は「ちょっと言えないことがある。事情があって出したいところで出さず、我慢していた」と説明する。どんな状態であっても、ベンチスタートは選手にとっては悔しいもの。周東も「出たい気持ちもありました」と言う中で、感情に左右されることなく立ち振る舞いにすらこだわることができたのは、中村晃外野手の影響だった。「出られる、出られないは関係ないです」とキッパリ語り出す。
「関係ないと思います。出られないから何かを変えるわけでもない。晃(中村)さんとかを見ていても、いつ出るかわからないような状況でも毎日同じ準備をしているのは見習う部分も多いです。僕が外れたからといって気持ちまで外してしまうと、チームとしても良くないと思います。ああいう背中を見て、やっていった方がいいと思いました」
中村晃は準備に集中している中で、自分が与える影響を「試合に入ったら自分がやることをしっかりとやらないといけないので。そこまでは構っていられないというか……」と話していた。その背中を後輩たちが見ているのは、当然のことだ。ベンチの雰囲気について「悪い雰囲気とかは全くないですよ。いい雰囲気でできていると思います」と代弁する。2試合連続で欠場となった周東から、グラウンドに対する気持ちもしっかりと受け取っていた。
「悔しそうな感じでしたよ。出たいんだろうなっていう感じでした」
周東は自身の変化を「成長(しているかどうかは)は周りが決めること」とは言うが、中村晃は「いいんじゃないですか」と成長の一部を認める。昨秋に周東が選手会長に就任した時も「すごく前向きだし、自分が引っ張っていく(という姿勢)のは見えました。良くても悪くてもやらないといけないので、そこで一番成長するんじゃないかなって思います」と言及していた。自分の現状に左右されることなくチームを勝たせる姿には、またリーダーとしての資質と成長を感じさせるシーンとなったはずだ。
今季から選手会長になったことで「1人の選手」という枠組みではなくなった。後輩たちが自分の背中を見ている。柳田悠岐外野手や、過去には松田宣浩さん、川島慶三(楽天1軍打撃コーチ)さん、先輩の背中もたくさん見てきたから、感情で行動が変わってしまうような自分はもういない。「僕たち選手は、首脳陣が考えているところに上手く仕事をするだけ。いつ行ってもいいように僕らは準備するだけです」と、最後までキッパリとした口調だった。
最後の最後に決めたのは周東ではあったが、チーム全員で掴んだ勝利だということもわかっている。延長12回裏にまで繋いだナインについても「どこが(勝利の要因)とかじゃないと思います。やっぱり全員。ピンチもあった中で有原さんもそうですし、有原さん以外の投手、内野も外野も全員が点を取られないように。12回をやって1失点に抑えたのが一番だと思いますし、今日は守りが一番大きかったです」と頷く。一丸となったチームは21勝9敗2分、勝率は驚異の7割だ。
家庭の事情での離脱もありながら、今季初のお立ち台となった。ファンへのメッセージをお願いされると、言葉を選びながら、静かに呼びかけた。「最後まで熱い声援をありがとうございました。明日からまた続くので、変わらぬ声援をよろしくお願いします」。この言葉も、偽りのない本音。リーダーとしても成長しようとする周東佑京の背中を、たくさんの先輩後輩が見ている。
(竹村岳 / Gaku Takemura)2024.05.08