代打とスタメン…中村晃は今、何を思う? モチベーションを与えた小久保監督のたった一言

ソフトバンク・中村晃【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・中村晃【写真:荒川祐史】

4月27日の西武戦では代打で同点打…磨きがかかるプロとしての“あり方”

 期待されるから、応えたくなる。プロ野球選手としての自分を、必要としてくれる言葉に胸を打たれた。ソフトバンクの中村晃外野手は、主に代打としての出場が続いている。出場機会が限られている中でもモチベーションは切れるどころか、鋭さを増すばかり。開幕前に小久保裕紀監督から授かった言葉が、自分の道を照らしてくれているからだ。現役時代に代打として愛され続けた長谷川勇也R&D担当の存在も踏まえて、今の胸中を激白した。

 プロ16年目の今季は、これまでにない“向かい風”の中で迎えることになった。山川穂高内野手、アダム・ウォーカー外野手の獲得の影響もあり、ここまで20試合に出場して打率.189、7安打、5打点。代打に限れば13打数4安打で打率.308だ。4月27日の西武戦(みずほPayPayドーム福岡)では7回に代打で同点打。成績はもちろん、存在感と姿勢そのもので絶対にチームに欠かせないワンピースになっている。

 代打として今の中村晃はベンチにも置いておきたい存在だろう。勝敗がかかったここぞの場面で使いたいような信頼も実績もあるからだ。一方でスタメンで起用する選択肢も捨てがたい。自分がスタメンで出たい気持ちと、代打として必要とされる気持ちにはジレンマがあるのでは……。そう問うと、中村晃はキッパリと言い切った。迷いなく日々を過ごせているのは、小久保監督から自分に対するリスペクトを受け取っているからだった。

「いやまあ、必要とされるのが一番いいので、どのポジションであっても必要とされるということがまずは大事です。監督も(中村晃に)言っていました、開幕の時に『唯一無二になれ』と。そういう存在になることが一番大事だと僕もその時に感じましたし。そうなれるように、チームの1つのピースとして力になれればと思います」

 唯一無二、のニュアンスは絶対に欠かせない存在であるべきだということ。たとえ出番がなくとも、中村晃がいるからできる起用があるのであれば立派な「唯一無二」だ。若い選手とともにベンチに座る時間が多く「試合に入ったら自分がやることをしっかりとやらないといけないので。そこまでは構っていられないというか……それはありますけどね」と今は自分のことで精一杯だが、連日のようにアーリーワークから試合に備える。中村晃の“プロとして”という意識には、磨きがかかるばかりだ。

「やっぱり後悔しないようにしっかり準備したいなっていう感じです。代打が多いので、どうしても1打席の勝負になってくると準備というのが一番大事だと思いますし。そういう面でしっかり準備できた上で、その打席に臨める状態にはしたいなって思っています」

ソフトバンク・長谷川勇也R&D担当(左)と中村晃【写真:竹村岳】
ソフトバンク・長谷川勇也R&D担当(左)と中村晃【写真:竹村岳】

 奇しくも、憧れた先輩と同じような道をたどっている。「参考にさせてもらっていましたし、今も『長谷川さんが代打だった時はこういう感じだったな』っていうのをちょっと自分なりに思い出しながら参考にしている部分はすごくあります」。自身の若手時代を振り返っても、背中を見ていた先輩の1人。長谷川さんのどんな部分を見て、偉大さを感じていたのか。

「長谷川さんがレギュラーの時から僕は知っていますけど、レギュラーの時と代打になった時、それぞれ違った勉強になる部分があったと思います。勝負強さもそうですし、野球に対する探究心というか、そういうのは最後まで持ち続けていたんじゃないかなと思います。僕らも含めて若い選手にいい姿というか、そういうふうなイメージはありました」

 長谷川さんも現役時代に通算1108安打を記録した。晩年は代打の切り札。ベンチの首脳陣にとっても“最高のカード”として、バットに磨きをかけた。偶然ではあるが、似たような立場になったことで「そこはすごいですし、貫き通すというか、変えずに準備されていたのはすごいなと思います」と、今だからわかることがたくさんある。明確なモチベーションを胸に、中村晃もまたプロとしての準備とプライドを貫こうとしている。

ガッツポーズを見せるソフトバンク・中村晃【写真:竹村岳】
ガッツポーズを見せるソフトバンク・中村晃【写真:竹村岳】

 自分自身がスタメンで出たい気持ちと、代打として必要とされる気持ち。長谷川さんも「そこは難しいところ」としながらも「このくらい(30代中盤)の年齢になると、ここから先、ホークスの将来も考えるようになる」と話していた。現役生活を全うしている以上、自分のことに集中するのは当然のこと。その上で、中村晃は自身のキャリアと、ホークスの未来をどのように考えているのか。

「まず自分が試合に出るっていうのは絶対に目標にしないといけないですけど、難しいですよね。僕がいつまでも出ていてもダメだとも思いますし、若い選手がたくさん活躍しないと将来的には厳しいのかなとも思いますし。そこは難しいです」

 口調は冷静ではあったが、表情から迷いや複雑さは一切感じられなかった。役割を見失わずに準備を徹底することで、中村晃のプロ意識はもっともっと輝きを放っている。「それも、打席に入るための準備ですし、それをやっておかないと後悔するということは、ちゃんと準備するようにしています。悔いがないように」。34歳の中村晃は今、新たな扉を開こうとしている。

(竹村岳 / Gaku Takemura)