野手の努力を見れば投手も「『どうにか』という思いが生まれてくると思う」
試合後の“爆速投稿”にとって、選手の努力が広く知られることになった。ソフトバンクは4月30日の楽天戦(みずほPayPayドーム福岡)で8-0と圧勝した。山川穂高内野手が先制の6号ソロを放てば、近藤健介外野手が4安打。柳田悠岐外野手も3号ソロと、クリーンアップが活躍した。注目を集めたのが、又吉克樹投手のSNS投稿。試合が終わってわずか10分後、山川と近藤が打撃練習を始めている写真がアップされた。
山川は2回無死、相手先発のポンセから左中間スタンドに6号ソロを放った。3安打を記録し、6回に敵失で出塁した際に代走を送られて交代した。近藤も4安打で、6回に左前打を記録した際に代走で交代。5回に4点を奪った時点で小久保裕紀監督も「今日は勝負あったかな」と、次々と選手を投入。主力を休ませる意味でも、大量得点に守られる展開になった。
18時に始まった一戦、試合時間は2時間37分だった。又吉がX(旧Twitter)に投稿したのは午後8時47分。これにはファンからも「こんな2人が素晴らしすぎる」「一流ってすごい」「ストイックすぎて尊敬する」との声が集まった。試合後の積極的な発信で“又吉広報”とも呼ばれているが、どんな経緯でこの投稿をすることになったのか。又吉本人に聞いた。
「自分が着替えてウエートに行こうと思ったら、あいつらの方がもう先に打っていたから。『なんかいいな』って思って」
又吉いわく「ロッカー、バッティング場、ウエートルーム」という順で隣接しているよう。トレーニングをしていれば、室内であるだけに打球音は自然と聞こえてくる。「誰かしらは毎日打っていますけどね」と見慣れた光景ではあったものの「いつも練習しているのは見ているし、そういう意味では刺激にもなりながら『あれくらい練習するんだ』って、自分がウエートしている時も励みになります」と刺激も受け、投稿したくもなった。
写真に映っているのは山川と近藤の2人だが、山川は「(近藤とは)毎日一緒です」と室内練習場で顔を合わせることは珍しくないという。さらに「そこには栗原も今宮もいますし、その後には海野とか仲田とか、今日リッチー(リチャード)も一緒でしたし。室内がいっぱいいっぱいになるくらいみんな打っています」と、試合後もバットを振りたい選手で溢れているようだ。「僕は西武の時からずっとやっていますけど、これだけ練習するタイプの選手が多いことは『すごいな』と見ています」と山川もうなるほどだ。
ポジションは違えど、努力する姿を見れば感じるものがある。特に投手は、試合後にブルペンで投げ込むなんてことはない。又吉も「投手は終わってから投げるとかはできないから、ああいうのを見ると頑張らないと思いますよね。結果を出す、出さないは別として、自分が求められていることへの姿勢がすごい」と同じチームでも背筋は自然と伸びる。勝利、優勝という共通の目的に向かっているのだから、努力を見れば、なおさら結果で応えたくなる。
「ああいうことをやっている選手を見ると、自分が投げている時も『どうにか』という思いが生まれてくると思う。それは先発も(にも言えること)ですけど『あいつあれだけ頑張っているから』っていうのはあるから。“見せない努力”っていうのもあるけど『あいつあれだけやっていましたよ』って(人から人に伝わる)こともある。信頼関係に繋がるとも思いますし」
中日からFA権を行使して、2022年に移籍した。3年目を迎えて「このチームのいいところは……」と語り出したのは、“ホークスの強さ”だ。
「ギーさんもそうですけど、このチームのいいところは自分だけじゃなくて出ている人間が活躍することで一喜一憂できる。逆に出ていない時の悔しさも、試合に出た時にも(プレーに)出ている。こないだのマキ(牧原大成内野手)も、自分の代打で出ていった晃(中村)さんが打って喜ぶとか、リッチーが惜しい打球でも山川が『ああ〜』って言ったり、ギーさんもヒカル(川瀬晃)がサヨナラを打ったらめちゃくちゃ喜んでいた。そこはこのチームの強い理由なのかなって思ったりしますね」
まず又吉が挙げたのは4月27日の西武戦。牧原大に代わって中村晃が代打で登場し、同点打を放った。代走を送られると、ベンチ前で一番に出迎えたのは牧原大。代打を出された悔しさよりも、同点にしてくれた喜びが体を突き動かしていた。延長10回に川瀬のサヨナラ打で決着がつくと、熱いハグをしたのは柳田。全員で掴んだ1勝だった。30日の楽天戦ではリチャードが1軍に昇格。惜しいファウルを打つたびに、ベンチで山川が笑顔で見守っていた。
「チームとして優勝を目指す以上、出られないやつもいる。でもその選手が出て活躍すると、すごく喜んだりするのがホークスだなって感じます」と又吉。連勝中であるだけに、雰囲気は良く見える。又吉も「それはあるかな」と認めつつ「けどだから勝つよね、とも感じます」。誰よりも速いSNS投稿には、数々のメッセージが詰まっていた。ファンなら裏側の努力も知りたい。そして、選手全員が喜ぶ姿なら何度だって見たい。
(竹村岳 / Gaku Takemura)