その同期とは、昨年の現役ドラフトで日本ハムに移籍した水谷瞬外野手だ。共に2019年に高卒でホークスに入団した同期で、水谷はドラフト5位、渡邉陸は育成ドラフト1巡目での指名だった。1軍デビューは渡邉陸が先。2021年に支配下登録されると、翌年、プロ初スタメンで2打席連続本塁打という鮮烈デビューを果たした。
一方の水谷は厚い外野手の層にも阻まれ、入団から5年間、1軍に昇格することが出来なかった。6年目の飛躍を誓っていた昨年オフの現役ドラフトで、水谷は日本ハムに指名され、北の大地が新天地になった。すると、水谷は4月9日に熊本で行われたソフトバンク戦で初めて出場選手登録された。すぐに渡邉陸のもとに報告があった。大切な仲間に1軍昇格の喜びをいち早く知らせた。
このカードの対戦は、9日は熊本、11日は北九州での開催で、10日は試合がなかった。渡邉陸に水谷から連絡が入った。「筑後に行くから」。渡邉陸は「なんで筑後?」と思ったが、目的は“筑後の実家”と言うほど、よく通った蕎麦屋に顔を出すためだったという。可愛がってもらった店主に近況を報告しにきたのだった。
筑後まで来たため、渡邉陸は水谷と「帰りの新幹線、一緒に帰ろう」と約束した。リハビリ組の渡邉陸は練習後、タマスタ筑後で水谷と再会。乗るつもりの新幹線まで時間があり、2人は2軍戦をスタンドで観戦した。渡邉陸はその時を振り返り「30分ぐらいですかね。初めてスタンドで観ました。1番上で観たんですけど、観やすかったです」と笑った。
蕎麦屋の店主から貰ったチケットで入場し、スタンド上段の席に座り、試合を見ながら話をした。「ファイターズとホークスの違いとか、チームの話もしました。あとは2軍戦の話とか。結構(水谷が)ホームラン打っていたじゃないですか。だから、それについて熱弁してきました。センターから逆方向に結構打ってたんで、『それは何で?』っていう話をしたり。主にバッティングのことですね」と、渡邉陸は会話の内容を明かす。水谷はイースタン・リーグでトップの4本塁打。「なんか充実してそうでした」。移籍先でやりがいのある日々を送っていることを感じた。
その後、同じ同期入団の中村宜聖4軍用具担当兼4軍サブマネージャーも合流し、3人で写真を撮った。渡邉陸にとって、水谷はどんな存在なのか――。「難しいですね。どんな感じだろう。戦友ですかね……。でも、なんか勉強になります。いろいろ話したくなりますね。バッティングのこととか、どこを変えたんだろうとか、そういう話は結構していたんで。『今どんな感じ?』って話したくなります」。話題のほとんどは野球の話。とにかく身近な存在だ。
「一緒に活躍することが1番ですね。応援しているし、なんて言うんですかね。ファン? それは言い過ぎかな? アイツのグッズを買おうとは思わないですけど(笑)、気になる存在ですね。チームの外では1番気になる存在です」。渡邉陸は独特な表現で水谷のことを言い表す。久々に会って「一緒に1軍でやりたいなと思いました」と決意も強くなった。
その翌日、北九州での一戦で水谷はプロ初スタメン起用され、3回の第2打席にプロ初安打、初適時打をマークした。渡邉陸は自宅でテレビでその瞬間を見ていた。「『おめでとう』ってLINEを送っていろいろ話しましたね。バッティングのこと、試合の話とか。『報道ステーション出るんじゃない?』とか」と笑い合った。九州から遠く離れた北海道に行っても「まだ筑後に居ても違和感なかった。5年ぐらいずっと一緒にいたので」と、離れた実感も、久々な感じもなかった。
次は1軍で再会するべく、渡邉陸もいち早い復帰を目指す。シート打撃を再開しており、実戦復帰も見えてきた。「めっちゃいい感じです。もう違和感なく出来ています」。キャンプ初日での肋骨疲労骨折による離脱は痛かったが、ようやく不安なくバットを振れるようになってきた。再会した渡邉陸と水谷。2人が1軍の舞台でしのぎを削る日々を心待ちにしたい。