苦い経験も成長の糧にする。ソフトバンクのドラフト5位ルーキー澤柳亮太郎投手は7日、楽天モバイルパークで行われた楽天戦でプロの洗礼を浴びた。2-2の同点で迎えた9回にマウンドに上がると、四球で走者を出し、鈴木大地内野手にサヨナラの適時二塁打を打たれた。プロ2度目の登板で初めてサヨナラ負けを喫し、相手の歓喜の輪を目の当たりにした。
「9回裏で痺れる場面で投げさせてもらって、ありがたいと思いながらワクワクしながら入れたんですけど、結果としてはダメでした」。こう振り返っていた右腕。試合直後はさすがにショックを受けたが、「切り替えられています」とすっかり立ち直った様子を見せている。
仙台での試合を終えると、チームはそのままバスで仙台空港へと向かった。週明けの日本ハム戦(熊本)に備えて航空機で福岡へ戻り、澤柳は筑後の若鷹寮へと帰宅した。楽天モバイルパークを出発して約5時間ほど。寮に着いたのは深夜だった。
「結構、時間があったので、いろいろとその時間で考えることができました。帰ってからもずっと映像は見ていました」。何度も見返した。何がダメだったのだろうか。果たして自分は冷静でいられたのだろうか。自問自答した。
「(先頭の)浅村選手の時に久しぶりにストライクが入らなくて焦ったんです。なんでか見返したら、技術的な問題というより、身体的な問題というか……」。映像を見返すと、投球時に向ける“ライン”がキャッチャー方向ではなく、やや一塁側にズレていたことに気づいた。「初球外に行っておかしくなって、セットにしたら普通に行ったので、そういうことなんだと思います」。代償を払うことになったものの、原因は分かった。
技術的な問題と同時に、気持ちを楽にさせてくれたのは周囲からの気遣いだった。試合後、小久保裕紀監督からは「気にするな。お前の責任じゃない」と声をかけられた。倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)にも「気にしなくていいから。また同じ場面があったらいくからな」。首脳陣の期待をヒシヒシと感じ、気持ちは奮い立った。
食事に連れて行ってもらうなど、公私にわたって面倒を見てくれる津森宥紀投手は「めちゃくちゃ声をかけてくれました」という。プロ初登板でいきなり満塁弾を浴びる衝撃のデビューをしていた津森は自身の経験も踏まえて「こんなのよくあることだから。切り替えていかないと、ズルズルと引きずっちゃダメだよ」。そして「オレのほうが悲惨だったから大丈夫だよ」と励ましてくれた。
結果はどうであれ、誰しもがプロの厳しさは味わうもので「確かに津森さんの方がヤバいですよね」と澤柳にも笑みがこぼれる。1軍で活躍している選手ほど、その悔しさを乗り越え、何度も立ち上がっているもの。「津森さんもそうですし、松本裕樹さん、オスナさんも通訳を通して話しかけてくれて、すごく守られているなって思いました」。誰しもが、澤柳の気持ちをわかるからこそ、みんなが声をかけた。
「期待してくれているのは感じますし、いい経験にして欲しいというのも感じたので、自分としてもあのままで終わっていられないという気持ちにさせられますね」。まだあれ以来、登板機会はないが、次こそは必ず抑えてやる――。澤柳の胸中は、そんな決意に満ちている。