“泣き顔”のワケは? ベンチ裏でこぼした「やっと当たった!」…山川穂高の苦悩と安堵

ソフトバンク・山川穂高(左)と柳田悠岐【写真:小池義弘】
ソフトバンク・山川穂高(左)と柳田悠岐【写真:小池義弘】

「うまくいかないときってどうやっても当たらない」

 苦しんでいたからこその安堵だった。ソフトバンクの山川穂高内野手が2打席連続グランドスラムというプロ野球史上2度目の快挙を成し遂げた。「1本目はもう本当に何とか、何とかっていう……。前の打席も三振してましたし、苦しかったんですけど、とりあえず1本出てっていうところですね」。去年までの本拠地で、球史に名を残した。

 1本目は6回だった。先頭の牧原大成内野手がセーフティバントを決めて出塁。周東佑京内野手が四球で繋ぎ、今宮健太内野手の犠打、柳田悠岐外野手の四球で満塁となった。打席に入った山川は初球、2球目と水上のシュートを豪快に空振り。迎えた3球目。外角高めのボール球を捉えた打球は快音を残して左中間スタンドへ。リードを7点に広げる豪快な満塁弾になった。

 ダイヤモンドを一周した山川はホームインの瞬間、泣き顔のような表情を浮かべた。ベンチでチームメートにハイタッチで出迎えられると、ライトスタンドのソフトバンクファンに向けて「どすこい」ポーズ。西武ファンからの大ブーイングを浴びながら、ベンチに腰掛けると、バットを抱きしめるようにして、表情を緩めた。

「もう『当たってくれた!』って。やっぱりうまくいかないときってどうやっても当たらないので、そこは苦しかったので、そういう表情になったかなと思います」

 この直前、5回の第3打席のことだった。第4打席と同じように山川は満塁のチャンスで打席に立っていた。西武先発の隅田の前にスリーボールから見逃しで1つストライクを奪われると、5球目、6球目のチェンジアップに続けてバットが空を切った。続く近藤健介外野手が2点適時打を放ち、事なきを得たが、痛い空振り三振だった。

 打ちたくても打てない、捉えたと思ってもバットに当たらない。古巣のファンから大ブーイングを浴びた前日の試合でも、4打席のうち3打席が三振だった。そんな打席が続き、山川自身も苦しんでいた。だからこそ、感情が溢れ出た。ベンチ裏に下がっても「やっと当たってくれた!」と歓喜の叫びをあげていたという。

 8回無死満塁では1ストライクからの2球目、豆田が投じた真っ直ぐを捉え、西武ファンが陣取る左翼スタンドに叩き込んだ。「2本目はもう理想通りですね」という完璧な当たりだった。

「ホームランって本当にそういうもの。打てないときって本当、どうやって打つんだっけっていう感覚になります。その中でフォアボールを選んだり、ヒットを打ったりとか、何とかもがきながら、こうやってホームランを打ったときには乗っていけるときもある。ただ、いい投手からずっと打ち続けるっていうのは難しいことなので、そういう意味では、明日もいいところで1本打ちたいなっていう思いでいます」

 1本目では豪快に披露した「どすこい」ポーズも、2本目は“控えめ”だった。「ロッカーとかの会話の中で、今のチームメートのギータさんとか拓也とかも含めて『ホームラン打ったらやってね』みたいな会話があるんです。どうしようかなって思っている部分もあるんですけど、一緒に戦っていく仲間が盛り上がる1つの方法ですし、そこはみんなの思いでやります。2本目は本当に、本当に迷いましたけど、小さめで」。古巣との対戦で迷うところはあったものの、今のチームメート、ファンのために行動に移した。

 この日の8打点で打点ランキングではパ・リーグ単独トップに立った。この2発で波に乗っていけるか。山川は4年ぶりリーグV奪還のために、これからもバットを振る。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)