中村晃が見せる姿勢、1打席に懸ける準備「もちろん勉強になります」
魂の叫びが仙台の空に熱く響いた。6日に敵地・楽天モバイルパークで行われた楽天戦。5-4でソフトバンクが勝利した一戦で鬼気迫る一打を放ったのが、中村晃外野手だった。
川村友斗外野手のプロ初安打となる適時打で1点を加え、4-2とリードを2点に広げて迎えた9回2死二塁だった。途中出場の仲田慶介内野手の代打として中村晃は打席に立った。1ボールから楽天の3番手・渡辺翔が投じた真っ直ぐを捉え、打球は左中間へ。貴重な5点目を生む適時打となった。
チームメートたちが飛び出し、大盛り上がりとなったホークスベンチ。一塁ベースに到達すると、中村晃は両拳を振り下ろしながら咆哮した。「もちろん」。報道陣からの「気持ちが溢れ出た」と問いかけられて即答した。1打席に懸ける感情。それが爆発した瞬間だった。
山川穂高内野手、アダム・ウォーカー外野手の加入により、中村晃は開幕から“代打の切り札”としての出場が続く。ここまで9試合を終えて出場は4試合。全て途中出場だ。攻守両面での能力、姿勢、振る舞い、その全てがレギュラーであっておかしくないが、ほぼスタメンが固まっている現在のチーム状況がそれを許さない。
当然、選手であれば誰だってスタメンで出たいもの。中村晃も例外ではない。ただ、現在のチーム事情をしっかりと真正面から受け止め、自らの役割として託される1打席にありったけの集中力を注ぎ込んでいる。中村晃ほどの選手が代打に控えていれば、チームとしてこれほど頼もしいことはない。そして、その存在と姿勢は、いま“生きた教材”として、ホークスの未来を担う若鷹たちに影響を与えている。
今季、ホークスには開幕前に支配下登録された3人の育成出身選手がいる。仲田慶介内野手、緒方理貢外野手、川村友斗外野手は揃って開幕1軍の座を勝ち取ってチームの戦力となっている。中村晃と同じように主にベンチメンバーとしてプレーボールの瞬間を迎え、ベンチを盛り上げつつ、試合後半に訪れる出番に備えている。同じように試合後半の“ここ一番”に向けて準備する中村晃の姿も間近で見ている。
中村晃が雄叫びをあげた6日の楽天戦でプロ初スタメン出場を果たし、初打点初安打もマークした川村はこう言う。「本当に準備がすごいんです。怠っていないなというか、自分がそんなこと言える立場じゃないんですけど、いつでも試合に行ける準備をすごくされていると思います」。いつ来るか分からない出番に向けて行う抜かりのない準備。川村だけじゃなく、緒方も仲田も声を揃える。
「ホークスに絶対に必要な選手ですし、僕がベンチ裏に行った時もずっとバットを握って、振って、ピッチャーのことを見てってやられています。そういう姿を見ていたので、ヒットを打った時は自分のことのように嬉しいですし、1打席に懸ける思いっていうのが凄いなって思います。もちろん勉強になります」。緒方が目にしたのはベンチ裏で鬼気迫る空気でバットを振る姿だった。
当然、若鷹たちにも準備の大切さはヒシヒシと伝わっている。中村晃ほどの実績も経験もある選手がそうなのだから、なおさら、だ。「すごい準備をされているんで、そこが一番ですね。自分もしっかりとした準備をしようと見習ってやっています。(ホームでは)アーリーワークもやられていますし、試合中も裏で常に準備をしている感じです」と仲田は語る。
かつてホークスには長谷川勇也(現R&D担当)がいた。今の中村晃と同じく、その姿勢が多くの人の胸を打った選手だった。その長谷川に弟子入りし、かつて自主トレを共にしていたのが中村晃だった。脈々と受け継がれてきた姿勢が、いま、また新たな若鷹たちに浸透しようとしている。
6日の試合後、小久保裕紀監督は中村晃の姿をこう表現した。「(中村)晃の集中力、あの喜ぶガッツポーズの姿とか、あれを見て(何も)感じない選手がいたら人じゃないですよ。あれぐらいのものを持って、1打席に懸ける選手がベンチにいてくれるっていう強さは感じました」。中村晃の、プレーだけではないチームに与える影響。ホークスに欠かせぬ選手なのは間違いない。
小久保監督の言葉に中村晃は「しっかり1年間、いい姿を続けられるようにやっていきたいと思います」と応える。スタメンであろうと、たとえ“代打の切り札”であろうと、中村晃は中村晃であり続ける。チームが日本一になるため、どんな形であれ、必ずやチームに貢献してくれる。
(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)