ソフトバンクは7日、敵地・楽天モバイルパークでの楽天戦に2-3でサヨナラ負けを喫した。打線が11安打を放ちながら、奪った得点は柳田悠岐外野手の適時打での2点のみ。同点のままで迎えた9回、緊迫感溢れる場面で、小久保裕紀監督がマウンドに送ったのは、ドラフト5位ルーキーの澤柳亮太郎投手だった。
プロ2試合目のマウンドとなった澤柳。先頭打者に迎えたのは球界を代表するスラッガーの浅村。初球のカットボールが外角に外れてボール。2球目のストレートも外角低めに外れた。緊張からか、力みが見えたのは確か。引っかけ気味のボールが続き、5球目のフォークが外れて四球を与えて、サヨナラの走者を出した。
続く岡島に対しての3球目で送りバントを決められると、鈴木大にはフルカウントからの6球目を弾き返された。打球は右翼の芝生で弾み、二塁走者が一気に生還。ほろ苦いサヨナラ負けを味わうことになり「9回の裏で痺れる場面で投げさせてもらって、ありがたいと思いながらワクワクしながら入れたんですけど、結果としてはダメだった」と、試合後に語った。
ただ、9回の大事な場面で起用したのは首脳陣の期待の表れだった。倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)は「今の評価と、やっぱりああいう場面を抑えるとすごく成長に繋がるんで、そういった意味でも、いい経験だと思いますし、もちろん、むやみやたらに起用しているわけではないので、しっかりそこで投げられるという判断で登板してもらいました」と言う。期待と能力、そして澤柳の今後を見据えた抜擢だった。
初回、2回と得点圏に走者を進めながら、山川穂高内野手と栗原陵矢内野手が併殺打に終わった。5回、6回以外は走者を出しながら、得点を奪ったのは3回のみ。打線が噛み合わず、接戦にもつれ込んだだけに、小久保監督も「澤柳に責任はないよ。悔しい思いをして次に繋げればいいだけで、敗戦の責任は背負わなくていい」と語っていた。
結果的にサヨナラ負けとなった澤柳の登板の中で、印象的なシーンがあった。先頭に四球を与えた直後、甲斐拓也捕手と栗原がすぐにマウンドに歩み寄った。緊張感いっぱいの場面だったが、甲斐は笑みすら浮かべて澤柳に声をかけた。
「緊張してるか? そりゃ緊張するよな」
「なにも気にせず思い切ってこい」
「バッターとしっかり勝負していこう」
固さの見えるルーキー右腕の腰に手を添え、明るく言葉をかけた。
緊張するのも無理はない。まだ、プロ2試合目の登板。プロ初登板だった4日のロッテ戦(PayPayドーム)は7点のリードがある状況だった。接戦での登板、しかも敵地での登板は初めての経験だった。その心情が痛いほど分かるからこそ、少しでも気持ちが楽になるように、甲斐と栗原は笑顔交じりに声をかけた。
「あれでだいぶ落ち着くことができました」。澤柳はその時をこう振り返る。岡島に対しての1、2球目はボールとなったが、3球目の送りバントで1死をとった。続く鈴木大には初球のカットボールで見逃し、3球目のカットボールでファウルを打たせて追い込んだ。5球目からフォークを続け、フルカウントからの7球目、3球続けたフォークを右翼線に弾き返された。結果的に打たれはしたものの、しっかりと勝負へと向かっていた。
敗戦から1時間ほど経ち、帰りのバスに乗り込む澤柳は前を向いていた。「これがいい経験になったって思えるように努力してやっていかないと、これがただ打たれただけの日になったらダメだと思う。しっかり自分で、どうして先頭を出してしまったのか、打たれたのかを考えて、この打たれた楽天戦がいい経験だったと言えるようにしたいと思います」。この1敗は決して無駄にしない。澤柳亮太郎が大きくなるための1日に、きっとなるはずだ。