「サイドスローをやれ」 人生を変えた一言…野手だった高校時代、長谷川威展の異色の経歴

ソフトバンク・長谷川威展【写真:竹村岳】
ソフトバンク・長谷川威展【写真:竹村岳】

下の名前の「威展」…由来は「父親から『強くたくましく生きろ』と」

 現役ドラフトでの入団から、もう欠かすことのできない1枚にまで成長した。ソフトバンクの長谷川威展投手は、移籍して1年目。春季キャンプから結果を出し続け、オープン戦でも6試合に登板して防御率0.00でフィニッシュした。開幕1軍入りも決定的な左腕を、鷹フルが単独取材。名前の由来から、サイドスローを始めたきっかけなど異色の経歴に迫った。自分の人生を変えた一言は「サイドスローをやれ」だ。

 埼玉県出身で花咲徳栄高、金沢学院大を経て2021年のドラフト会議で日本ハムに6位指名を受けてプロ入りした。1年目は2試合、昨シーズンは9試合登板も通算防御率0.87。能力の片鱗は確かに示していた。昨年12月に行われた現役ドラフトでホークスに入団した。今月20日、ダーウィンゾン・ヘルナンデス投手が「右半腱様筋筋損傷」と診断されて離脱。左腕を1枚欠くことになっても小久保裕紀監督は「長谷川(威展)が1枚いるので。長谷川がしっかりと入ってくれたら」と信頼を寄せた。

 下の名前の「威展」は「たけひろ」と読む。由来については「あまりしっかりとは聞いたことはなくて……。でも(聞かれた時に)いつも言うのは、父親から『強くたくましく生きろ』と」。自分だけの尊い名前を授かった。「小学校の時は“ハセ”って呼ばれていましたけど、中学くらいからは『威展』って呼ばれるようになりました」と、少しずつ周囲にも下の名前は馴染んでいった。野球を始めたのは小学校3年生の時。友達から誘われたことがきっかけだった。

 高校の進路は、県内の強豪校だった花咲徳栄高を選択する。結果的に3年夏に清水達也投手(中日)、西川愛也外野手(西武)を擁して、全国制覇を果たす世代だ。長谷川は県大会は背番号19番でベンチ入りするが、甲子園ではベンチ外となった。「県大会もベンチには入れないと思っていた」。甲子園出場を決めた後、個別で監督に呼び出されてベンチ外であることを告げられた。「俺が外れるだろうなっていう気持ちだったので、ある程度は覚悟していました」と、向き合うと決めていた瞬間でもあった。

「悔しい気持ちはもちろんありましたけど、客観的に自分の実力では入れなかった。(勝ち上がるチームを見て)頑張ってほしいけど、甲子園優勝まで行くとまたレベルが違うというか……。優勝するならやっぱり入りたかったなっていう気持ちにはなりましたね。複雑な感情でずっと見ていました」

 アルプススタンドからの景色は今でも覚えている。「県大会でも入れたのが奇跡くらいでしたよ。(周囲というよりも)僕が下手だったので」。ベンチ入りした18人が掴んだ金メダルも当然、長谷川はもらえなかった。1度も負けないまま最後の夏を終えた中で、長谷川の胸中は「仕方ない気持ちもありましたけど、それで大学で活躍したらカッコいいなっていう気持ちでした」と前だけを見ていた。

 入学時は投手だったが、長谷川も「コントロールが悪すぎた」と主に一塁手を務めていた。内野手ならサインプレーや、ショートスローもあるだけに「監督の中では『内野手をやることで野球が上手くなる』『コントロールがよくなる』っていうのがあって、自分のファーストからの送球が良くなったくらいで『もう1回投手をやれ』ということで」と、指揮官の意図も理解して野手として経験を積んだ。もう1度、投手に戻ったのは2年の冬。グラウンドで監督に「サイドスローをやれ」と告げられたことが、今に繋がる第一歩になった。

 投手としての地力がつき始めたのは「大学3年くらいですね。それくらいから『投手でやっていこう』っていう気持ちになりました。球速も上がっていましたし」と語る。入学時は最速138キロだったが、150キロ前後にまで成長。そして2021年10月11日、ドラフト会議の日を迎えた。下位に進むにつれて、指名されずに終わる可能性も出てくる。長谷川も「諦めていました。呼ばれない、終わったと思っていました」という中で、日本ハムから6位で名前を呼ばれた。具体的なシチュエーションまで、今もしっかり覚えている。

「大学の寮のミーティングルームにいました。楽天の松井(友飛投手)と一緒に見ていて、先に松井が呼ばれて。僕も選ばれるか、選ばれないかくらいのところだったので、周りも僕に気を遣って、松井が選ばれた時は『おめでとう』くらいのテンションで。『気遣われてるな』っていうのは思いました。自分が選ばれて、周囲もやっと喜んでくれた感じでしたね」

 ホークスに入団して、4か月が過ぎようとしている。マイペースな左腕ではあるが「みんな優しく接してくれます。一緒にいるのは投手陣がメインになりますけど、同級生もみんな仲良くしてくれますし、そこに割って入っていけるように」と少しずつホークスナインにも馴染んできた。開幕まであと少し。ファンの方々にも「基本的には明るい方だと思うので、気軽に話しかけてもらえたらと思います」と、ニッコリ笑って呼びかけていた。

ソフトバンク・長谷川威展(中央)【写真:竹村岳】
ソフトバンク・長谷川威展(中央)【写真:竹村岳】

(竹村岳 / Gaku Takemura)