3月7日にインスタグラムを更新…若手時代の思い出が詰まった飲食店への感謝
心からの感謝を込めた、素敵な投稿だった。若手時代から支えてくれた自分の“家”だ。ソフトバンクの中村晃外野手が、3月7日に自身のインスタグラムを更新した。綴られていたのは、福岡市中央区大手門にある飲食店「平」(たいら)への感謝と思い出。3月末で1度、休業されることになったお店に「少し休まれるみたいですが、また美味しい平さんのご飯を楽しみにしています!」と記していた。
ニッコリ笑顔のツーショット。平さんとの思い出を中村晃と、柳田悠岐外野手に語ってもらった。思い出であるはずなのに、味は何も覚えていない“あの夜”。心からドキドキした緊張感あふれる夜は、今も胸に色濃く残っている。
中村晃は2007年ドラフト3位でホークスに入団して「西戸崎寮」を5年で退寮。一人暮らしを始めて、平さんと出会った。「寮を出て一人暮らしを始めた時に、あの辺に住んでいたので。初めては覚えていないんですけど……。誰かに連れて行ってもらったって感じじゃないですか」と記憶をたどる。帝京高時代は実家からの通いだったため、本格的な一人暮らしは初めて。食事面のサポートは大きかった。
「(最初は平さんに)やっぱり選手って気づいてもらったんじゃないですかね。若くて、まだ試合にもそんなに出ていなかった時に気づいてもらって、よくしてくれましたね。最初、一人暮らしの時はお店に行く感じで、1軍の試合に出るようになって食事の面で難しかったりしたので、お弁当を作ってもらったりとか、1人で食べることも全然ありました」
一人暮らしをスタートさせた2013年、1軍で109試合に出場する。1軍に定着した年、ナイター後の食事はやはり苦労した。「やっぱり一人暮らしだと難しかったですね。帰り道にお店があったりすれば、ありがたいなと思っていました。家の近くだったので、車で行って食べたりして」。夜遅くまで営業はしていたものの、お店を開けて待っていてくれたこともあったそう。「基本的には遅くまでやっているお店だったので食べて帰る感じで。定食みたいなものを作ってもらって、食べて帰るっていう」という若かりし日の思い出だ。
香りや味覚、景色などは記憶と力強く結びついているもの。中村晃も「なんでも美味しいんですよね、あそこは。やっぱりトンカツとか、もも焼きとかはいつも頼んでいましたね。あとはバランスも考えてくれるので、野菜とかもたくさんありましたし、定食だったらそうやって出してくれました」と懐かしそうに振り返る。時にはお弁当にしてもらって、ナイター後の帰り道にお店に立ち寄り、持って帰った。「週3くらい」で通っていたのだから、たくさんの思い出がある。
当時、柳田とは同じマンションに住んでいた。「結構仲良く、一緒に行っていましたね」という。忘れもしない、2014年10月1日の夜だ。翌日のオリックス戦はホークスにとっては144試合目。敗れれば優勝の確率が限りなく低くなるという事実上の優勝決定戦だった。シーズンを通して一戦必勝の姿勢を貫いてはきたものの、文字通りの“絶対に負けられない試合”。当時の心境は、今でもよく覚えている。
「本当なんか、緊張感もありましたし、食事にもあまり集中していなかったですね。喉が通らないとか言うじゃないですか、あんな感じです。1人で食べるよりも、仲間と食べたのは良かったですね」
2014年は中村晃が176安打で最多安打。柳田も全試合に出場して打率.317を記録するなど、2人ともバリバリのレギュラーとして“10.2”のグラウンドに立っていた。中村晃が「何を食べたか覚えていないですね。でも野球の話ばかりはしていたと思いますよ」と言えば、柳田も「俺も(笑)。ばり緊張していたし、マジで覚えていない。2人でとりあえず頑張ろうって言っていたのは覚えていますけど」と苦笑いで振り返る。前夜ですら、味を覚えていられないほどの緊張感で過ごしていたことは確かだった。
「負けたら優勝できない確率が高かったので。すごい緊張感と。でもいい思い出、いい経験になりましたよ」と中村晃。年を重ねていく中で引っ越しや、2021年オフには結婚したことを発表するなど、若手時代のようにはお店に行けなくなっていった。だからこそ「あの場所は思い出があるので、最後に行っておきたくて。行けて良かったです。(お世話になっている飲食店の中でも)思い入れのあるお店の1つですから」と、感謝を伝えに行った。プロ人生をともにしてきたお店は、表現するならどんな場所なのか。
「家みたいな感じですよ。『おかえりなさい』って言ってくれるので。落ち着ける場所ですし、たくさんの人と行きました。そんな感じの場所です」
完全な余談だが、中村晃のインスタグラムの投稿に柳田は「いやいや、呼ばれてない」とコメント。中村晃も「いやいや、呼んでない」と返すやり取りからは、2人の関係性が伝わってきた。柳田も「悲しいですけど、他の場所でやるみたいなので。また行けますしね」とうなずけば、中村晃も「あの場所は帰ってこなくなるので行っておきたかったんですけど、やる気満々だったので大丈夫だと思います。まだまだ頑張ってほしいですね」と語る。グラウンドで全力で戦い、たくさんの思い出話を手に、また必ず笑顔で会いに行く。
(竹村岳 / Gaku Takemura)