体の中から聞こえた「ポキ」 キャンプ初日に骨折…激痛との闘い、渡邉陸の“近況報告”

ソフトバンク・渡邉陸【写真:竹村岳】
ソフトバンク・渡邉陸【写真:竹村岳】

2月1日の練習中に肋骨を疲労骨折…オフの肉体改造の影響にも言及

「ポキ」。体の中からハッキリと音が聞こえた。ソフトバンクの渡邉陸捕手は、2月の春季キャンプで「左第1肋骨疲労骨折」。以降はリハビリ組での調整が続いている。横一線のスタートから、正捕手の座を目指すはずだった球春は、味わったことのない時間を過ごすことになった。一体、どんな経緯で骨折してしまったのか。2月はどのように過ごしていたのかを、鷹フルの単独取材で明かした。

 2023年はウエスタン・リーグで79試合に出場して打率.225、2本塁打、17打点。1軍出場はなかったものの、バットでもマスクでも確実に経験を積んだようなシーズンだった。オフシーズンでは肉体改造を試み、12月以降だけで体重は8キロ増加。「バケモノになる」とさえ言い切るほど、自分自身の変化と進化に自信を抱いていた。飛び込んだ春季キャンプの初日。アドレナリンとともに出力が格段に上がり、自分の体は耐えられなかった。室内練習場での打撃練習だった。

 骨折の瞬間は体の中から「ポキって聞こえました」と具体的に振り返る。違和感は抱いていたものの「やりながら治そうかなというか、そんな大事になるとも思っていなかったです」という。時間が経つたびに、痛みが増す。すぐさまトレーナー室に出向いた。「最初は『痛えな』って感じだったんですけど、30分後くらいにはもう動けなくなっちゃって、病院に行けるかもわからなかったです。トレーナー室でも『多分、骨折だね』って言われました」。

 左側の肋骨が折れたが、右側を折ってしまった経験もある。その時と比較しても「症状が一緒だったので、絶対に折れているなって自分でも思いました。(診断を聞いた時も)『そうよね』って感じで」と、ある程度の覚悟はしていた。宮崎から移動しようにも、最初は「帰ることができるかもわからなかったです、動けなかったので。でもこっち(宮崎)にいてもキツいですし……」と、キャンプ地から“脱出”することも一苦労だった。

「何をしても痛いし、何もできない」と、生活に支障も出た。車を運転しても、地面からの振動ですら痛みがある。骨折した翌日の2日に宮崎から帰福したが「何日間かは来ていないんです」と、リハビリ組の練習にたどり着くことすらできず。自宅で安静にする時間が続いた。「アドレナリンがずっと出ていたので、ネガティブな考えにもポジティブな考えにもなれず。オフの延長みたいな、すごく不思議な感じでした」。体重が落ちないように、食事の管理だけは徹底するようにしていた。

 小久保裕紀監督も競争を掲げ、春季キャンプをスタートさせた。やる気に満ちていたはずの初日に、最悪の結果となってしまったことも「体を大きくしたので、その目的はクリアできたんですけど、怪我をしたら意味がないんだなと思いました。もうちょっとケアしておけば……」と、悔しさとともに受け止めるしかない。増量した影響も「結果が出れば『大きくしてよかった』と思ったんでしょうけどね。今はあんまりマイナスには思っていないです」と、少しずつ前を向けるようになってきた。

 1月23日の時点で、体重は100キロと明かしていた。「栄養士さんとも話はして『100キロは切りたくないよね』って。今は101とか、102キロとかですかね」と、なんとか維持はしているものの、骨折以降はトレーニングもままならず。「やっぱり質が違います。怪我をしてからはトレーニングができていないので、体のハリが弱い感じはします」と、筋肉の衰えは感じている。

 直近では軽いランニングと、下半身のトレーニングを再開したばかり。バッティングとスローイングの再開には、まだ時間がかかる見込みだ。「テレビを見ていても『いいな』って思います。メジャーリーグを見たり、でも早くトレーニングしたいなって思います」と、元気にプレーしている選手たちを羨ましく眺めている。衝撃を与えたキャンプ初日の離脱。近況報告も兼ねてファンへのメッセージをお願いすると、笑顔で答えてくれた。

「キャンプの離脱は6年目で初めてだったので、だいぶ実戦から離れてしまっているので不安もありますけど、やるしかないので。1日も早く、まずは復帰したいなと思います」

 その表情に悲壮感はなく、しっかりと未来を睨んでいる様子だった。出遅れてしまったが、いつか高く飛ぶために。今は準備に徹する。

(竹村岳 / Gaku Takemura)