2年間の悔しさを晴らす年にする。ソフトバンクの栗原陵矢内野手が復活を期して、開幕に向けた準備を進めている。春季キャンプで重点的に取り組んでいるのは体作りと三塁の守備。「守備は本当に受ければ受けるだけ上手くなるし、確率を上げられるものだと思うんで」。昨季から本格的に三塁手に転向し、今季はまだ2年目。守備力の向上も課題の1つだ。
2022年、2023年と悔しさしか残らない2年間を過ごした。主軸として期待された2022年は開幕5試合目で左膝の前十字靭帯断裂と左外側半月板損傷の大怪我を負い、シーズンを棒に振った。1年ぶりに復帰した2023年シーズンは開幕からレギュラーとしてプレーを続けていたが、8月23日のロッテ戦で右手有鈎骨を骨折。戦線を離脱し、勝負の終盤戦でグラウンドにいることができなかった。
ヒリつくような優勝争い、CS争いを繰り広げたシーズン終盤の戦いを、ただテレビで眺めることしかできなかったこの2年間。チームは2年続けてリーグ最終戦で厳しい現実を突き付けられた。「いいところで試合に出たいんです。終盤の優勝争いとか、そういう試合に出たい」。たとえ悔しい思いを味わったとしても、その場にいられないよりもいい。極限の緊迫感を栗原は渇望している。
右手の怪我の影響はまだ消えていない。「キャンプの前半はちょっと痛かったんですけど、ちょっとずつ回復しています。感覚の変化は球によってあることも、全然ないこともあります。日によって違うので、時間が解決すると思いながらやっています。でも、やれない痛みではないので、もう治るまで頑張ります」。キャンプが終わり、対外試合が始まった今も、時に出る痛みと付き合いながら練習を続ける。
オフには2年続けてアリゾナ州の施設で自主トレを行った。今年は三塁を争うライバルとなる井上朋也内野手も同行させた。わざわざアメリカにまで足を運ぶ理由を「自分の人生にとってのプラスを貰いに行くため」という。ただ野球のトレーニングをしに行くだけではない。自分の人生にとってもプラスになる何かを得たい――。そんな思いが今年もアメリカへと向かわせた。
自主トレを行った施設では現役メジャーリーガーもトレーニングに励んでいる。そうした一流選手とコミュニケーションをとる中で、あることに気付いたという。「一流の選手になればなるほど、色々なことをやっているなというか、自分のため、野球のために時間をすごい使っています」。一流選手こそトレーニングや食事を深く考えるだけでなく、メンタルトレーナーをつけて精神面を整えたり、野球のため、自分のために24時間を費やしている。
「疲れているからやらない、とかじゃなく、しっかりと自分の心をまず整えてるなと思いました。一流選手のほとんどがやっていて、若い選手ほどやっていない。メジャーでバリバリやっている選手は何かしらやっていることがあるって分かりました」。日々戦う上でメンタル面の安定が重要だというのは、2度目の渡米で得た大きな収穫。「毎日同じ気持ちで球場に入って、行けるようにみたいな感じ」と、自身がやるべきことが明確になった。
自主トレ中の休日にはアリゾナ州にあるネイティブ・アメリカンの聖地「セドナ」に足を運んだ。赤い砂岩の岩山に囲まれ、大地と地球の壮大さを感じられるパワースポットで「1年目に行って、すごくいいなと思いましたし、絶対に行きたい場所だった。自分の悩みってちっぽけだな、世界は広いというか、生きてるっていいなって思いました」。これまでに味わったことのない感覚。とてつもなく大きなスケールを感じ、晴れやかになる心を感じた。
「シーズンに入ったら悩むことは絶対に悩むんでしょうけど、そこで上手く自分で気持ちを整えられたらな、と思いますね」。昨季はなかなか打撃の状態が上がらず、メンタル面で浮き沈みがあったのは事実。結果を問わず、常に一定の精神状態でいること。栗原陵矢の復活は、間違いなくホークスを4年ぶりのリーグ優勝に近づけてくれるはずだ。