全体練習の途中でもオスナのブルペン投球を見学…倉野コーチが明かす舞台裏
4人の投手の視線が、偉大な投手だけに集まっていた。全体メニューから1度外れてでも、見る価値しかない圧巻の内容だ。ソフトバンクのロベルト・オスナ投手が16日、キャンプ3度目のブルペン投球を行った。「あそこまで徹底しているのはすごい」「今までの慣例みたいなものは取っ払いたい」と語ったのは倉野信次1軍投手コーチ（チーフ）兼ヘッドコーディネーター（投手）だ。
ブルペンに集結したのは尾形崇斗投手、松本裕樹投手、カーター・スチュワート・ジュニア投手、ダーウィンゾン・ヘルナンデス投手。午前中の出来事で、まだ全体練習の途中。それぞれのメニューがあるにも関わらず、中断してオスナのブルペンを見学した。その舞台裏を、倉野コーチが明かす。
「だって、どんどん見に行ったらいいじゃないですか。練習なんて（午後）2時、3時には終わるんですから。どう使おうがいい。離れて見に行くことで影響があるなら別ですけど、時間の使い方は自由。人のピッチングや練習方法を見て、学ぶことっていっぱいあると思いますし、今までやってきたことが正しいとも思っていないですから」
投手の練習なら、遅くとも16時には帰りのバスに乗れる。時間の使い方を選手自身が考え、やるべきメニューを怠ることがないのなら積極的に動けばいいと背中を押していた。「こっちが『いいよ』と促してあげれば、その気持ちがある人は見に行くだろうし。今まで『それが当たり前だった』と感じていたことが、そうじゃないこともある。僕は“いい”と思うなら、今までの慣習とか慣例みたいなものは取っ払いたい。そういう意味では、僕は合理的なのかな」と、柔軟な考えで選手の自主性を尊重していた。
尾形は、11日にオスナが初めてブルペン入りした時も投球を見学していた。「最初は普通に見に行ったんですけど、その次のクールくらいからはコーチから『見たい時は自由に見に行っていいよ』って感じでした」としっかりと首脳陣から“許可”をもらっていたことを明かす。自分のスキルアップのために、技術練習を一旦中断してでも、オスナの投球から学びたいことがあった。
MLBでもタイトルを獲得するなど、圧倒的な実績を持つオスナ。そのすごさを、尾形が代弁する。「一番はコントロール。あれはワールドクラスだと思います」と驚愕すれば、倉野コーチも「僕も全てのメジャーリーガーを見たわけじゃないですけど」と前置きした上で「オスナくらいの意識で投げている投手って、あんまり見ないですよ。それも、自分の意図通りに高い確率で投げられている。あそこまで徹底しているのはすごい」と、米国での経験を含めても、オスナの1球1球に込められた意図はハイレベルだという。
オスナは常に打者を立たせて、試合を想定してブルペンでも投げる。一定以上のコントロールがあったとしても、試合のようにカウントを整えるのは簡単な技術ではない。しかし、オスナの“世界級”の制球力がそれを可能にさせる。見守っていた尾形も「投げたいところに投げられるからほぼ試合通りになっていますよね。その球だけじゃなくて、その次に投げる球へのつながりまで考えていますし」と、あくまでも投球練習であるブルペンで試合さながらの緊張感を抱くから、マウンドでも最大のパフォーマンスを発揮できる。
「1球1球、全部に意図があると（オスナは）言っていました。高めを投げたら次は低めの変化球とか、コンビネーションですね。たとえ抜けたとしても、オスナに言われたんですけど『それを生かすんだ』って。生かして、次は近いところに投げるとか、高めに抜けてバッターの目線を変えたのなら近いところで足を動かしたりとか。起きたことに対して、全てプラスに捉えているんです。トップを取る人の考え方ですよね」
ヘルナンデスも目を丸くして「ストライクばかりだったね」と語れば、スチュワートも「完璧だった」と苦笑いしながら感想を口にする。“一番弟子”として春季キャンプをともに過ごしてきた尾形も「自分はあそこまでできないかもしれないですけど、意識を持って取り組むことが大切と思ってやっています。できる、できないは別にして、それだけの意識を持ってピッチングができるかどうか。それがオスナの言いたいことだと思う」と、思いを受け取っていた。オスナが見せる全てが、ホークスの財産となっていく。
（竹村岳 / Gaku Takemura）
