4年ぶりのリーグ優勝を目指すソフトバンクの投手陣に“改革”を起こす。そのキーマンとなるのが今季、3年ぶりにホークスに復帰した倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)だ。MLBのレンジャーズでコーチ経験を積み、アメリカの指導方法や考え方などを吸収し、チームに還元している。
投手陣の立て直しはV奪回には改善しなければいけない課題だ。昨季リーグ5位の防御率だった先発陣の強化はもちろんのこと、リーグトップの防御率だった中継ぎ陣の運用やマネジメントも、倉野コーチには問われるところだ。
昨季、ホークスのリリーフ陣は好成績を残した。救援防御率2.68はリーグトップで、12球団では阪神に次いで2位。間違いなくホークスにとってリリーフ陣は最大の武器である。リバン・モイネロ投手が先発に転向するものの、4年契約で残留したロベルト・オスナ投手が守護神に君臨し、松本裕樹投手や藤井皓哉投手ら実績のあるメンバーもいる。
ただ、いかにリリーフ陣の疲労蓄積を抑制し、できるだけフレッシュな状態でマウンドに送り出すかは、143試合の長いシーズンを戦う上で重要なポイントになる。その中継ぎ陣のマネジメントについて、倉野コーチはこう言い切る。
「(肩を作る回数は)絶対に減らします。これが肝です、1番の」
力を込めたのはブルペンでリリーフ陣が肩を作る回数を減らすこと。登板数以上にリリーバーの負担となり、蓄積疲労の要因となるものに、試合中にブルペンで肩を作る回数があげられる。終盤にリリーフ陣に疲労の色が濃く出ていた昨季は、ブルペンで一度に複数の投手が肩を作り出したり、1人の投手が1試合で4回、5回と準備することもあった。
「作る回数をどれだけ減らせられるかはベンチとブルペンの連携もそうだし、僕は選手に『とにかく肩を早く作ってくれ』と言っています。これはもう最初に言っているんです。少ない球数でマウンドに出られるということが、自分が作る回数を減らすことにも繋がるし、疲労、負担を減らすことにもなる。そこはもう最初にみんなに言いました」
肩を作るために時間がかかる投手であれば、試合の展開が読めない段階で、準備を始めさせなければならない。すぐに肩のできる投手であれば、ある程度、登板が見込まれる状況になってから準備を始めさせることができる。だからこそ倉野コーチは「『とりあえず準備しといてね』になってしまうと、回数が増えちゃって、結局、登板しませんでした、になってしまう。そこは絶対に減らそうと思っています」という。
2年間、コーチとして学んでいたアメリカの中継ぎ投手は驚くほど、肩を作るのが早かったと言う。「4番バッターに投げている途中にベンチから電話して、6番打者のところに行ってくれって言います。肩ができるのも早いんで」。ものの3分、5分ほどで肩を温めてマウンドへと向かっていく。倉野コーチも「あれを目の当たりにしたら、すごいなと思いますよ」と振り返る。
実は、そのための取り組みをキャンプで取り入れている。「早いのは習慣だと思っていて、早く作ろうという習慣があれば、最初は難しいかもしれないけど、絶対できると思う」。今年は例年に比べて、投手陣の行うキャッチボールの時間が明らかに短くなった。ポンポンとボールを投げ、距離を広げ、そしてすぐにキャッチボールが終わり、次のメニューへと移っていく。
「そういう所もあって短くしています。(今年が)暖かいのもあるんですよ。寒いときはちょっと時間をかけるんですけど、暖かいのもあって、こんなに時間いらないよねって」。さらにB組の投手陣に対して「立ち投げを少なくしてください」との指示も出した。キャッチボールを終えてブルペンに来たら、すぐにキャッチャーを座らせて投げる。それも準備の時間を短くさせる工夫の1つだ。
ブルペンでの準備の回数を減らすこと、準備にかける時間を短縮させることともに、層の充実にも期待する。
「とにかく層を厚くすることを考えています。もちろん、どうしても1年間回ってもらいたい中継ぎ投手もいますけど、どちらかというと、旬な人をどんどん使っていきたい。2軍との入れ替えも活用してもいいかなと思っています。やってみないと、わからないですけど」
1軍メンバーの大枠が固定されることなく、その時々で状態のいい投手を積極的に1軍で起用したい考えを倉野コーチは持つ。1軍にいる投手でも、状態が落ちてきたならば、ファームでリフレッシュさせ、2軍でイキのいい投手にチャンスを与える。そういった入れ替えを多くすることもプランにある。
先発陣の充実はもちろん必要だが、鉄壁のリリーフ陣がいることも優勝には欠かせない。4年連続で日本一に輝いた2017年から2020年のホークスも屈強なリリーフ陣がチームを支えていた。倉野コーチが描く中継ぎの運用。シーズンでどんな効果を発揮するのか、注目のポイントとなる。