3年連続でリーグ優勝を逃しているソフトバンクにとって、投手陣の再整備は避けては通れぬ道となっている。昨季はリーグトップの得点数を叩き出しながら、チーム失点数はリーグ4位。投打の歯車がなかなか噛み合わなかったのもあるが、ディフェンス面がリーグ優勝を逃した一因であることは間違いない。
その投手陣を建て直すためにチームに戻ってきたのが倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーティネーター(投手)だ。2021年まで工藤公康元監督のもとで投手コーチを務め、2022年は自費で渡米し、メジャーリーグ・レンジャーズのマイナーでコーチ研修。2023年はマイナーのコーチに就任し、今季、3年ぶりにホークスに復帰した。
この春のキャンプでは本場アメリカでの経験や学んだ知識などをチームに落とし込んでいる。12球団で11番目に多かった与四球を減らすために「ストライクゾーンで勝負すること」を徹底させることもその1つだが、投手陣の“評価基準”に対しても、大きな変化を与えるという。
メジャーリーグがそうであるように、ソフトバンクでも最新鋭のテクノロジーを取り入れてチームマネジメントに生かそうという動きがある。投手陣に対して、倉野コーチが1軍から4軍の全投手に対してミーティングで伝えたのは「今年はこの指標を評価に使います」「これらの指標で評価します」ということだった。
投手は勝利数や防御率、勝率などで評価されるのが、これまで一般的だった。ただ、防御率は味方の守備力などに左右され、勝利数や勝率も守備や味方打線による援護、相手投手など様々な要素に影響を受けるため、投手個々の能力を測り切ることはできない。セイバーメトリクスが浸透しているメジャーリーグでは詳細な指標をもとに投手は評価されており、倉野コーチはホークスにもそれを導入しようとしている。
「いろいろな指標を5つか6つぐらい、これを重要視しますよという指標を掲げています。ネタバレしてしまうんで、それが何かは言えないですが、打った、打たれただけの評価だけではなく、プロセスも含めて評価していきます」
指標の詳細について倉野コーチは明かさなかったものの、そこには初球ストライク率やゾーン割合、K/BBといった指標が含まれていると言う。セイバーメトリクスの世界で、投手個々の能力を測るとされる指標を基にして投手陣は評価を下されることになる。
2年間、本場のアメリカで学んできた倉野コーチは3年ぶりとなるホークスでの春季キャンプを「景色が全然違いますね」と言う。「今までなんであんなところにこだわっていたんだろうっていう部分もあるし、なんでここにこだわらなかったんだろうっていうのもあります。1回外に出たおかげで、見え方は変わりました」。3年前にはなかった視点で投手陣を見ているという。
1つの例として「フォームですね。フォームにこだわりすぎていました」と挙げる。重要なのは“どんなフォームで投げるか”ではなく“どんなボールを投げるか”であるにも関わらず、フォームばかりを意識していたと振り返る。
「何が大事かっていうことに気付いたんですね。日本人のコーチって、フォームを見るじゃないですか。向こうのコーチはフォームは見ないんです。ほとんど、ボールしか見ていない。それには良し悪しもある。(フォームを見るのは)日本の良さでもあり、それが凝り固まった考え、バイアスみたいになってしまっている可能性もある。それに気付けたというのは大きかったです」
投手が“どんなフォームで投げるか”ばかりを見ていてはいけない。かといって“どんなボールを投げるか”だけでも良くはない。“どんなフォームで、どんなボールを投げているか”を、データや科学も用いて複合的にチェック、分析することが大事。NPB流とメジャー流をミックスさせようと倉野コーチは考えている。
3年ぶりにホークスに戻ってきた倉野コーチ。メジャーでの経験、知識を得て投手陣をどう変身させるのか。リーグ優勝奪回の鍵を握る男の“投手陣改革”に注目だ。