13日にオスナが2度目のブルペン投球…広報からもアナウンス「B組投手見学あり」
チームを優勝に導くのはもちろん、自分の生き様を後輩に残していくことも役割だと思っている。飛び込んでくる若手は絶対に拒まない。超一流の器だった。ソフトバンクのロベルト・オスナ投手にとって、入団して2度目の春季キャンプ。ここまで2度のブルペン投球を行うなど、開幕に合わせたマイペースな調整を続けている。若手の思いを“7倍”にして返す、オスナの兄貴肌が表れたシーンがあった。
第3クール4日目だった13日、オスナがキャンプ2度目のブルペン投球を行った時。広報からも「B組投手見学あり」とアナウンスがされ、多くの選手が後ろからオスナの投球を見守った。その1人が、今季5年目の小林珠維投手だ。北海道出身で、野手としてプロ入りするも、2022年オフに戦力外通告を受け育成契約を結んだ。昨季は投手と野手の“二刀流”で成長しようとしてきたが、今は投手1本に専念している。
育成で1軍出場もなく、昨季に関してはウエスタン・リーグすら出場がなかった小林と、MLBでもタイトルを獲得するなどバリバリのメジャーリーガーだったオスナ。小林から勇気を持って踏み出すと、会話は20分以上にも及んだ。何よりも小林が驚いたのは、実績がない自分が初対面で“突撃”しても、懇切丁寧にアドバイスをくれた丁寧さだった。
「メジャーの実績があって、日本でもトップクラスの選手があれだけ丁寧に教えてくれるのはすごいなと思いました。ああやって話したのも初めてだったんですけど。『去年までは一応、バッターもやっていたよ』って伝えたら『バッターの時、お前はどう思って打席に入っていた?』っていうところから始まりました」
自分の考えを押し付けてくるような雰囲気は一切なかったという。オスナには小林に関する知識はほとんどない。まずは自分から質問することで小林の考えを知り、寄り添ってきてくれたそうだ。「『こういうイメージで立っていた』って言うと『その逆を俺たちはするんだ』って言われました。本当に丁寧、一生懸命に教えてくれました。“1”の質問をしたら“6”か“7”くらい返してもらって、優しかったです」とオスナの器に惚れ込む出来事になった。
経緯としては、小林が最初に声をかけたのはオスナの球を受けていた甲斐拓也捕手だった。「タクさんに『なんでホームベースの前に座って捕っているんですか?』って聞きました」。捕手をベースよりも前に座らせて、18.44メートルよりも短い距離で投球する姿に興味を抱いた。甲斐にとっても、オスナの球を受けるのは今年で初めて。甲斐にも背中を押されて、本人に質問してみることを促されたようだ。
「最初は、オスナも倉野コーチと話していたのでタクさんに聞こうと思ったんですけど、せっかくだから行ってみようかなって思いました。『どういう攻められ方をしたらバッターは打ちづらいと思うんだ?』って言われて『それを俺たちはピッチングから意識してコースに投げるんだ』っていうことを教わりました」
投球の中で、右打者の外角にカットボール、内角にツーシームを投げ込む姿も印象に残った。「コンビネーションとしてどうやっているのかも気になりました。握りもそうですけど、ピッチングの中で意識することを聞いていました」。球速や変化球など投球能力が目立つオスナだが、シーズン中では登板前に相手打者のデータを徹底的に頭に入れている。育成である以上、結果が全ての今。オスナは能力と準備を、どうやって結果に繋げているのかも、聞いてみたかったことだった。
オスナの投球を生で見たのは2度目だった。「捕手を前に立たせている意図を聞きたかった」と、小林なりに抱いた疑問をぶつけたかった。話がヒートアップしてくると、オスナが取り出したのは自身のスマートフォン。MLB時代の自分の投球映像を見せながら「これはこういう意図で投げているんだ、バッターがこういうふうになっているからこういうボール、変化球を投げるんだ」と解説してくれた。徹底的な準備に裏打ちされた結果。その片鱗を知ることができたのは、小林にとってもきっと大きなきっかけとなる。
「本当に丁寧に教えてくれましたし、優しかったです。キャリアもそうですし、あれだけの成績を残してくれる投手でも、こんなにも丁寧に教えてくれるというのは僕の中でも収穫でした。もっと聞いてみたいと思いますし、今後オスナが1軍で投げているのを見ても、今日聞いたことを踏まえて見ればまた勉強になると思います」
尾形崇斗投手と食事をした時も、睡眠の質や1日のカロリー数を管理しているアプリケーションをスマートフォンで見せていた。無名の選手にまで丁寧に教えてくれる人柄と、プロとして示す徹底的な姿勢。培ってきた全てに自信があるから、オスナは後輩に伝えていくことを惜しまない。
(竹村岳 / Gaku Takemura)