悔しすぎる“屈辱”をも味わいながら、A組キャンプの日々を送っている。「どこが似とんねん」――。育成選手として、心からの本音だった。ソフトバンクの緒方理貢内野手は春季キャンプでA組入り。「お客さんの声が……。変な球を投げたら『ああ』っていう(ため息のような)声が一番メンタルきます」と、重圧とも戦っている。
宮崎県出身の25歳で、右投げ左打ち。京都外大西高から駒大を経て、2020年の育成ドラフト5位でホークスに入団した。2022年にはウエスタン・リーグで17盗塁を記録してタイトルを獲得。昨季は同リーグで50試合に出場して打率.140と苦しんだが「みやざきフェニックス・リーグ」では小久保裕紀監督からも打撃面の成長を評価されていた。
A組入りという支配下を掴むために、小久保監督に直接アピールできる最大のチャンス。全てが初めてという中で、何度も悔しい“屈辱”を味わっているそう。別の育成選手と間違われるという出来事を自らの口で明かした。
「『サインください、仲田くん』みたいな。誰? 『どこが似とんねん』って僕はずっと思っています。何に間違えられているのか、僕もわからないので、そこだけ注意してほしいです」
公称で緒方は174センチ、69キロで、仲田慶介外野手は175センチ、74キロ。背格好に加えて、俊足巧打というプレースタイルからも勘違いされているのかもしれない。「結構言われます」と、1度や2度の話でもないそうだ。まだ育成という自分自身の認知度を含めてもなお「知っといてくれよって思います……」と、間違える側への理解は示さなかった。なおさら、自分がやっていくべきことは1つしかないこともわかっている。
「目立つしかない。僕が緒方、彼が仲田とみんながわかるように活躍して、テレビとかに出るしかないですね」
課題は、スローイングにあることは自覚している。シートノックで自分の送球がそれると、球場からため息が漏れる。緒方の耳にも届いてしまっていて「みんなの『ああ』って声です。やばいやばいやばい……ってなりますし、自分がそう思った時の声がメンタルきます」という。「でもそんなこと気にしていたらダメなので、頑張ります」と言うものの、一瞬一瞬がアピールのチャンスでもある育成選手。ポジティブな声にも、ネガティブな声にも人一倍、敏感になってしまっているようだ。
「でももっとドームに行ったら声も聞こえなくなるし、奪われると思います。それくらいで潰れる選手は上に上がれないと思うので、気にはしますけど、潰れないようにはなりたいです」
俊足も持ち味だが、緒方本人としては打撃面をアピールしていきたいと自主トレ公開の時から語っていた。シートノックでも安打を記録すると、スタンドからは拍手や声援が溢れる。しかし「それは聞いていないです。集中しているので。いいプレッシャーの時は聞こえないじゃないですか」と、ため息との違いを語る。いつかは1軍の舞台に立つことを目指して鍛錬を積んでいるだけに、偉大な先輩たちが経験してきた道を、いつかは自分が通ってみせたい。
「多分、見ている人みんな、僕が誰かもわかっていないところからのスタート。本当に、わかってもらえるように活躍するしかないです」
春季キャンプも第4クールに突入し、紅白戦も予定されている。「このキャンプで野球人生を変えるんだと思って来ている。1日1日、結果を出せるように」と、ギラギラの目で心境を語っていた。