ドライブラインの影響で変化した意識「野球人生の中でも一番頑張った」
力強すぎる誓いだった。「テーマは、バケモノになる」――。米国で見てきた全てが、自分の理想像をより高みへと引き上げた。ソフトバンクの渡邉陸捕手が23日、福岡工業大学の練習施設で自主トレを公開した。「フィジカルのところでも技術的にも、上を目指すという意味です」という言葉の節々からみなぎる自信。昨年12月に行った肉体改造は、どんな変化を自分自身にもたらしたのか。
2024年に6年目を迎える。2022年に1軍で3本塁打を放ったものの、昨季は出場なし。ウエスタン・リーグで79試合に出場して打率.225、2本塁打、17打点に終わった。2021年シーズンを終えて、そのオフから中村晃外野手との自主トレが始まった。「キャンプが終わってから一緒にトレーニング、練習もさせてもらっていた。オフシーズンの過ごし方というところから、学べるところはたくさんあると思って今年もお願いしました」と経緯を明かす。
「バケモノになる」とまで言い切るほど、高くなった自分の理想。きっかけは昨年12月に渡米したことだった。プロ入りしてからは初の海外。「車も逆を走っていましたし、軽自動車みたいなものも一切なかったです」と目に映る全てが新鮮だった。秋季キャンプの延長で、本場でもドライブラインに触れて帰ってきた。「今までの野球人生の中で一番頑張ったというか、常に野球のことを考えて過ごしたオフでした」。米国で見た景色、受けた刺激はどんなものだったのか。
「12月にアメリカに行って、リチャードさんみたいな選手が全然大きくないというか、目立っていなくてあれが普通みたいな感じだった。世界ってすごいなと思いましたし、それくらいのレベルにならないと戦えないと思って、ウエートトレーニングや食事に気をつけるようになりました。まずは食事だったり睡眠というところを勉強して、それがバケモノに近づく第一歩かなと思います」
全体的なスケールアップが必要だと痛感した。まず改善したのは食事面。体重は12月以降だけで8キロ増えて、100キロとなった。「あと2キロ増やしてキャンプインしたい」と言うのも、ドライブラインで出た結果を表現するために、フィジカルの進化が必須だったからだ。「この自主トレをやってもらっているトレーナーさんのところ。晃さんや大関(友久投手)さんも行っているんですけど、そこでトレーニングして、食事もしてって感じです」と、栄養士をはじめサポートしてくれる人の存在で着実に体は大きくなっている。
食事の回数はなんと、1日7回。「(食べすぎて)酸欠になります。大関さんもビニール袋を持っていくくらいです」と吐く寸前まで、胃袋から限界に迫ってきた。1日のルーティンを「朝食べて、練習中に食べて、お昼ご飯を食べる。(全体練習が終わって)トレーニングの前に食べて、トレーニングが終わって食べて、夜ご飯を食べて、寝る前に食べます」と明かす。空腹の状態を作らないようにした結果が、8キロの増量につながった。
続いて、睡眠だ。時間は7時間から8時間を確保するようにして、自分で本を買って勉強もした。体重が増えた影響もあり「まずは仰向けで寝ないことです、あまり回復がしないので。人間が一番リラックスする体勢があるらしいので、その体勢で寝ています」と、1つの姿勢すら大切にして、睡眠という休養とも向き合ってきた。寝る前も「スマホを見ない。あとは寝る時間を逆算して夜食も食べて、時間を空けてから寝るように」と、まさに24時間が野球に生きるような過ごし方をしてきた。
効果は打球に表れている。打球速度の計測はしていないというが「外で打っている時もセンターから逆方向でも飛びますし、ちょっと薄いかなと思った打球でも飛んでくれるので実感しています」とうなずく。自主トレに帯同している柳瀬明宏打撃投手も「バックスクリーンにボンボンと入れたり、左中間にも放り込んでいます。(効果が出ているのは)間違いないです。めちゃくちゃすごいですよ」と代弁した。周囲にまで伝わるほどのスケールアップだ。
監督が変わるタイミングは、選手にとってもチャンスとなる。2024年からは小久保裕紀新監督が1軍を率いることになった。2軍監督時代の2年間をともに過ごし「やることは一緒だと思いますけど、この2年でいいところも悪いところも知ってもらっていると思う。僕の性格も、理解されている方だと思います」と、捉えている。キャンプインで競争のゴングが鳴る。「(変わったなと)言ってもらえなかったら、あと10キロ増やします」と、少し笑いながら思いを語った。2月1日から毎日が勝負だ。
小久保新監督がレギュラーと明言しているのは柳田悠岐外野手と近藤健介外野手だけ。甲斐拓也捕手がいるものの、現状で捕手は“空位”だ。「やっぱりバッティングが好きなので、そこを生かしていけたら」。米国での全てが自分を変えて“バケモノ”になろうとしてきた。変わった姿を存分に見せつけて、たった1つのポジションを奪い取る。
(竹村岳 / Gaku Takemura)