チームを襲う深刻な“睡眠障害” 選手間で高まる意識…東浜巨が訴えた環境改善とは

契約更改交渉に臨んだソフトバンク・東浜巨【写真:藤浦一都】
契約更改交渉に臨んだソフトバンク・東浜巨【写真:藤浦一都】

契約更改で訴えた要望「ドームに仮眠室をお願いします」選手の身に起こっていること

 ソフトバンクの東浜巨投手が20日、PayPayドームで契約更改交渉に臨んだ。昨年の契約更改の場では、1億円の大台を超えたことは明かした上で、詳細な年俸は非公表とした。年俸1億5000万円程度だと見られ、3年契約の2年目となる来季の契約内容も「現状維持です」という。球団との交渉の席で訴えたのは、深刻な“睡眠障害”という問題についてだった。

 今季は17試合に登板して6勝7敗、防御率4.52に終わった。シーズン開幕前から藤本博史前監督には、石川柊太投手とともに先発ローテーションの柱として名前を挙げられ続けてきたが「不甲斐ない成績でチームに貢献できなかったので、その悔しさを晴らせるように、気持ち新たに来年頑張りたいです」と結果を受け止めるしかない。

 1年に1度、球団と膝を突き合わせて意見を交換する契約更改。東浜は「『ドームに仮眠室をお願いします』と。どちらかというと、コンディションを整えるというところでお願いしました」と伝えたという。アスリートにとっても大切な休養、回復。東浜が見てきたのは、毎日チームのためにグラウンドに立ち、勝利のために全力でプレーする選手たちの姿だった。

「ここ数年寝られないとか、睡眠障害を訴えている選手が増えた。それはいろんなことが起きているので、一概に疲労だけが(要因と)は言えないんですけど、少しでも疲労が取れて、気持ちがスッキリして試合に臨めれば怪我の予防にもなるだろうし、コンディション的にも上がると思います。それが試合の勝利に直接繋がってくることだと思うので、そういうところはお願いしました」

 先発投手の登板はほとんどが週に1度だけ。自分自身の登板に合わせて、時間をかけて調整を行い、マウンドの上で最高のパフォーマンスが発揮されるように工夫を重ねる。一方で野手、中継ぎ投手は毎日が戦いだ。「野手の皆さん、中継ぎの皆さん、特にホークスは移動が一番多い球団でもあるので。そういうのを加味した上で、より試合の中でパフォーマンスが出せるように、少しでも怪我の予防ができるように。準備している姿を隣で見ていて、大変そうだと思うので」。自分のためというよりも、人のために声を上げる。東浜らしい願いだった。

契約更改交渉に臨んだソフトバンク・東浜巨【写真:藤浦一都】
契約更改交渉に臨んだソフトバンク・東浜巨【写真:藤浦一都】

 福岡に本拠地を置くホークス。ビジターゲームとなると長距離移動を強いられる。1年間を戦うペナントレースで移動の影響は計り知れず、東浜も「こればかりは仕方ないところ。みんな慣れていると思う」としつつも「慣れているとはいえ、体は正直ですから。そういうところで少しでもカバーできる体制があればと思って伝えさせてもらった」と、選手たちの思いを代弁するような形にもなった。

「年齢も重ねてきましたし、まずは自分のことをしないといけないのは間違いないですし、そういう立場(リーダー)にいるのもわかっているんですけど、チームのことを考えた時に、優勝するためにはというところで噛み砕くと、そういうところまで目を向ける必要があると、今日は話しました」

 グラウンドでのパフォーマンスにスポットを当てる中で「睡眠障害を訴えている選手が増えた」という驚きの発言。交渉に同席した三笠杉彦GMが、補足する。

「うちが特に睡眠障害が多いとは思っていませんが、ナイターが続く夜の仕事でもある。環境が変わったというより、オーラリングみたいなものもあって、睡眠に対しての意識が高まっている。昔から眠れない人もいたと思いますけど、トレーニングとともに休息もアスリートにとって大切ですので。(睡眠障害が)増えているというよりは、意識が高まっているということではないかと思います」

 オーラリングとは指にはめて心拍数などを計測し、睡眠の質や体の状態を数値化するもの。東浜はこの日の契約更改でも装着しており、他にも板東湧梧投手らも愛用している。「取り立てて何かの要因で睡眠不足者が続出していると、そのようなことではないと認識していますけど。睡眠を管理して、いい休息が取れるような環境を提供している取り組みが必要」と、東浜の要望に対して真っ直ぐに向き合う。コンディションまでが数値化できるようになった時代、選手もさまざまな面で感覚が鋭くなっているのは間違いないだろう。

 仮眠室の新設については「他の選手からの要望もある」と、東浜以外にも訴えた選手がいたと三笠GMが明かす。前向きに捉えつつも「スペースには限りがある。今でもロッカーで仮眠する人、酸素カプセルで仮眠をする人もいる。全員分の用意はなかなかできませんので。いずれにせよシーズンだと移動も多くて、休息は大切な要素ですので。どのようなやり方があるのか、考えていきたい」とした。施設面も含め、選手のパフォーマンス、チームの勝利のために何ができるのか。考えるようなタイミングが来ているのかもしれない

 来季は東浜にとっても、もう1度存在感を示していくようなシーズンとなる。「(今季は)1つもいい数字は残せていないですし、自分の成績がチームの順位に直結していると思います。そういう意味では責任を果たせなかった1年だった」。チームのことはもちろん、自分自身のためにも。優勝という同じ目的のために、一丸になっていきたい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)