1度は挫折を味わったからこそ、抱く野望は誰よりも大きい。去就が流動的だったソフトバンクのロベルト・オスナ投手が、来季も残留することが決まった。MLB時代にはセーブ王に輝くなど、数々の実績と存在感で2023年のチームを引っ張ってきた。終盤戦、不動の守護神とともに勝利の方程式を結成していたのが藤井皓哉投手と松本裕樹投手。藤井はオスナをハッキリと「超えたい」と言い切った。大きな夢の背景にある思いとは――。
藤井は今季、先発として開幕を迎えた。開幕3戦目の4月1日、ロッテ戦(PayPayドーム)で先発して1勝目を挙げたが、6月には左脇腹を痛めて離脱。7月に1軍に再昇格して以降は中継ぎとしてブルペンを支えた。徐々にリリーフとしての姿を取り戻し、終盤には7回の男に定着。8回の松本裕、9回のオスナのリレーは盤石を誇っていた。
2022年には55試合に登板して5勝1敗、防御率1.12。56回1/3を投げて81三振と、リリーフとしての適性も示したシーズンだった。来季はすでに、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)から中継ぎ起用を通達されている。必勝パターンの筆頭候補と言える右腕は、オスナの残留をどのように受け止めたのか。密かに抱く大きな野望を打ち明けた。
「(オスナの残留は)チームにとってもすごく大きな、大事な戦力だと思います。ただ、僕自身としては、そこを超えていかないと成長はできない。もちろん、自分自身としてもたくさん勉強になることがある。(来年は)さらにブルペンで話せる回数も増えると思うので、そういう意味でもオスナの考えも勉強していきながら。憧れるだけではなく、超えていけるようにやりたいです」
オスナがいることで、ブルペンの安定感は当然増す。しかし、1人の選手としては最高を目指していなければならない。「そうしないと、自分の成長はない」とキッパリ言い切る。セットアッパーに甘んじるのではなく、守護神をオスナから奪うほどの安定感を示していくつもりだ。広島から戦力外となり2021年は独立リーグも経験。挫折を味わったから、誰よりも高い未来だけを見上げている。
オスナという圧倒的な実績を誇る選手から、ブルペンでの時間は何を学んだのか。「オスナに限らずですけど、長く活躍している人には共通して、オンとオフがハッキリしている」と語る。オスナの出番は、ほぼ9回だけ。そこに向けての準備と、集中力を高めていく姿勢を近くで見てきた。「集中してゲームに入る。ブルペンでは、ふざけるじゃないですけど、試合直前になるとスイッチが入る。もちろん、それまでの準備もしっかりしていますから、勉強になりますね」というのがオスナのすごさだ。
「オンの状態は作れるんですけど、オフの状態を作るのは難しいんです。ずっと集中していたら、集中力も持たないですから。そういう意味でも、すごい投手だなと思います」
オスナは今季49試合に登板して3勝2敗、26セーブ、防御率0.92の成績を残した。1人の投手としての能力についても藤井は「僕にないものを持っている。僕は三振を取りますけど、彼は三振も取るしバットに当たっても弱い打球が多い。ハードな打球が少ない」とうなる。藤井の被打率.192で、オスナは同.173。藤井は先発時の数字も含まれているため、一概に比較はできないものの、この差が「僕にはないもの」と表現する。オスナは被安打28本のうち長打は8本、被弾は3本。打者を圧倒するだけの能力を目指して、このオフを過ごすつもりだ。
「チームとして優勝を目指していく以上は、そこも必要になってくる。それは個人としてしっかりやるのが前提の話なので、まずは自分がしっかりとチームに貢献できるような成績を出せるように。怪我をしないところからが大事だと思いますので」
松本裕とともに、必勝パターンの最有力候補だろう。オスナこそ一番近くにいて、一番超えていきたい存在。全てを吸収して、ナンバーワンのピッチャーを目指す。