今宮健太に“憧れるのをやめる” 川瀬晃が変えたい時代…「ライバル」として挑む最大の壁

契約更改交渉に臨んだソフトバンク・川瀬晃【写真:藤浦一都】
契約更改交渉に臨んだソフトバンク・川瀬晃【写真:藤浦一都】

1000万円増の2700万円でサイン…球団には背番号「0」への変更を要望

 ソフトバンクの川瀬晃内野手が5日、PayPayドームで契約更改交渉に臨んだ。1000万円アップの2700万円(金額は推定)でサインし「笑顔出ていますか? バレました? アップ(金額)なので(笑)」とはにかんだ。会見中も終始笑顔で、納得の交渉となったようだ。来季の目標を問われると、今宮健太内野手の存在をハッキリと「ライバル」と言い切った。今宮だからこそ挑戦状をハッキリと口にできる。2人だけの尊い関係性とは――。

 今季は102試合に出場して42安打、打率.236、0本塁打、15打点。多くの面でキャリアハイの成績を記録した。守備面でも一塁15試合、二塁27試合、三塁26試合、遊撃43試合と、ハイレベルなユーティリティプレーヤーとしてチームに貢献した。失策も三塁での1つだけだった。「昔からいろんなポジションを守らせてもらって、その成果が今年は出た。代打も含めて、すごくいい経験をさせてもらいました」と手応えを口にし、その上で「レギュラーで出ないと意味がない」とうなずいた。

 特に強調したのが、9月&10月の戦い。打率.327を残し、ロッテとのクライマックスシリーズのファーストステージでもスタメン出場するなど、大事な試合を任されるようになっていった。確かな手応えとともに、来季への意気込みは自然と熱くなる。自主トレは大分県国東市で行う予定で、勝負したいポジションも「ショート1本」と話す。契約更改の場に相応しい、力強い決意表明だった。

「(自主トレの地は)とてもやりやすい環境の場所ですし、今までは今宮さんにお世話になっていた。1人でやることで黙々とできるとも思いますし、その姿は今宮さんにも通ずると思います。いい関係で、ライバル同士としてやっていけるんじゃないかと思って、1人でやることを決めました。まだまだ(今宮さんから)教わることもたくさんある中で、来年にかける思いは人一倍強いです。その中でライバル同士で一緒にやるのは違うと思いました」

 1年に1度の契約更改。シーズンの振り返りも、翌年への決意も、多くの報道陣の前で語る“神聖”なタイミング。テレビカメラの前で言い切ったことも「今まではカメラさんの前で『言っていいのかな……』というのがあった。今年に関しては勇気というよりは、挑戦状という形。僕も強気ですし、負けたくないですから」と、何よりの決意の表れだ。その熱い思いは川瀬からの一方的なものではない。6歳離れている2人ではあるが、リスペクトで成り立つ関係だからこそ、掲げた目標でもある。

契約更改交渉に臨んだソフトバンク・川瀬晃【写真:藤浦一都】
契約更改交渉に臨んだソフトバンク・川瀬晃【写真:藤浦一都】

 これまでもレギュラーを目指してプロ野球人生を歩んできた。控えとしての価値を自分自身で作り上げてきたものの、レギュラーを奪うにはもう一歩が足りず。ゴールデングラブ賞5度、通算1250安打の今宮に挑むというのは、どこか「半信半疑でした」と言う。一方で誰よりも、自主トレをともにしてきたからこそ、今宮の偉大さを知っているつもりだ。今年の成績、手応えがあるからこそ今宮の存在を「ライバル」だと表現することができた。

 心からリスペクトする存在であることは何も変わらない。むしろ、プロの世界の厳しさを知るほど、その道で戦ってきた今宮のすごさを知るばかりだ。ライバルだとキッパリ言い切ることができたのも、同じ釜の飯を食べ、関係を深めてこられたから。今宮なら自分の挑戦状を、真正面から受け取ってくれるとわかっているからだ。「本当に勝負ですし、今までにない感情があります」。9年目を迎える2024年、今宮健太からレギュラーを奪いに行く。

「ここ数年は『ホークスのショートは今宮健太』が当たり前みたいな感じで、そこを川瀬晃に変えるのは至難の業だと思います。自分の中ではそこを振り払うつもりで、ホークスのショートは川瀬晃だという時代を作りたいです。9月、10月の話になりますけど、自分が出塁したり、バントで送った走者が返ってきたり、ここ数年のホークスに僕みたいな存在はいなかったと思います。本当にスター選手ばかりで、1人泥臭くやっていくプレースタイルは僕しかいない」

 2022年の自主トレは筑後で行うなど、過去にも“チーム健太”からの卒業は試みたことがある。一方で、今年は再び今宮のもとを訪れ「筑後だと手伝ってくれる人もいないですし、自分の中で1日1日がモヤモヤしてる状態で、物足りなさを感じた」とも明かしていた。今度こそ、自主トレを自分1人で行う。今宮も「自分のことだけを考える。晃は晃で、自分でやらないといけない年齢。お互いにショートを狙うわけですし、いいんじゃないですか?」と1人のライバルとして川瀬を認めていた。2月1日、熱すぎるゴングが鳴る。

「やりたくてユーティリティをやっているわけではないですし、プロ野球に入っている中でスタメンで出ないといけない思いはずっとありました。小久保監督も柳田さんと近藤さんしかレギュラーは決まっていないと言っていましたし、狙えるチャンスはある。狙っていかないといけないと思っています。僕が試合に出て、最終的に優勝したいと思います」

 交渉の席では、球団に背番号を「00」から「0」に変更したいという希望を伝えた。「ゼロを1つ減らしたいというのはずっと思っていました。まだ確定ではないですけど、前向きに考えてくれるということでした」と笑顔でうなずく。確実に転機の1年となる。恩返ししたい全ての人たち、そして自分自身のために。今宮健太に憧れるのは、もうやめる。

(竹村岳 / Gaku Takemura)