8月時点で「もう来年はない」 5年目で覚悟した戦力外…元鷹右腕が描く“第2の人生”

コーチ就任会見に臨んだソフトバンク・奥村政稔4軍ファーム投手コーチ補佐【写真:藤浦一都】
コーチ就任会見に臨んだソフトバンク・奥村政稔4軍ファーム投手コーチ補佐【写真:藤浦一都】

ソフトバンクの新コーチ4人が就任会見…奥村政稔コーチ「倉野さんのように」

 気持ちで向かっていった現役時代のような、熱い決意表明だった。ソフトバンクは2日、PayPayドームで新任コーチ4人の就任会見を行った。奥村政稔4軍ファーム投手コーチ補佐は「今年1年しっかり勉強して、今のコーチに負けないくらいの知識と熱量でやっていきたい。倉野さんのようなコーチになりたい」と倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)を理想像に掲げた。

 大分県出身で、2018年ドラフト会議で6位指名を受けてプロ入りした。2019年の12登板がキャリアハイ。2022年にはプロ初先発も経験した。同年9月に右肘を手術し、育成契約へ。今季はウエスタン・リーグでも11試合に登板したが、オフに戦力外通告を受けた。1992年生まれで8月には31歳を迎えた。「7月31日が終わった時、自分の年齢やし、もう来年はないことはハッキリとわかった」と、8月の時点で戦力外になることを覚悟していた。

「事務所に呼ばれて、構想外ですと言われた時からもう来年選手でやろうというのはなかった。本当にその場で来年はないと自分の中で考えていました。(コーチ打診は)選手と近いところでまたやれたら嬉しいですっていう話をしていて、一番近いところにしてもらったので、本当すごい嬉しかったです」

元ソフトバンク・奥村政稔(写真は現役時代)【写真:上杉あずさ】
元ソフトバンク・奥村政稔(写真は現役時代)【写真:上杉あずさ】

惚れ込む2人の指導者「自分の中で小久保さんと倉野さんは男の中の男」

 第2の人生を歩むことになり、恩返ししたい2人がいる。「2軍の投手、野手もそうですけど小久保監督(裕紀、当時2軍監督)を絶対に男にするんやって掲げてきた。自分の中で小久保さんと倉野さんは男の中の男というイメージがある」と、どこまでも憧れる背中だ。小久保裕紀新監督は2軍で指揮を執った今季、ファーム日本一に輝いた。来季から1軍監督となる。奥村コーチの管轄は4軍で直接的な関わりはなさそうだが、強いホークスを作ることが恩返しになる。

 倉野コーチに憧れるのは、オンオフのメリハリがあるからだ。「怒る時は怒りますし、2軍の試合だとしても『1球で人生が変わる』というのは口酸っぱく言われていたんです。『気持ちを込めて投げろ』『1球で変わる世界だから』とずっと言われていました」と言う。一方で「決起集会とかしても倉野さんは盛り上げてくれるし、また明日から頑張ろうと思えるんです」。厳しい姿勢も、心を開いてくれることも、全てが選手のため。それをうまく伝えるだけの知識と経験が倉野コーチにあるから、追いかけていたい。

 現役時代、目線が捕手から外れるほど思い切り腕を振るフォームが代名詞だった。気持ちで投げるタイプの投手は、今の若鷹を見渡しても「少ない気がします」と言う。データからアプローチもできるように、知識が必要であることもわかっている。全ては、憧れた2人への恩返しのため。新人コーチの目は、真っ赤に燃えていた。

(竹村岳 / Gaku Takemura)